「月収100万円」「徹夜続きで疲弊」…コロナ禍で始めた副業のリアル
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に副業がじわり浸透しつつある。コロナ禍による景気悪化を背景にした本業の将来不安や収入減少はもちろん、リモート勤務の導入により空いた時間を生かすために副業を始めた人も少なくない。そこで日刊工業新聞社は、コロナ禍によるリモート勤務の一般化をきっかけに本格的に副業を始めたというサービス業に勤務する30代の女性と、メーカー勤務の管理職である50代の男性の2人に話を聞いた。「副業収入が年収を上回った」「副業によって家族に迷惑をかけた」――。2人の話から副業のリアルが浮かび上がった。
副業収入が月100万円/サービス業勤務・30代女性の場合
「現在の副業収入は月90万―150万円くらいです。10社と業務委託の契約を結んでいます」―。都内のサービス業に勤める30代の女性は笑みを浮かべる。本業である広報・マーケティング業務のスキルやこれまでの仕事で培った人脈を生かし、スタートアップ企業の広報支援などを副業で請け負っている。副業は2019年に1―2社程度で始めていたが、コロナ禍の昨夏に案件を増やし始め、20年の副業収入は775万円に上った。本業の年収約600万円をも上回った。
副業の案件や収入を大幅に増やせた最大の理由は、コロナ禍でリモート勤務が一般化したことだという。
「コロナ前は会議などのために『本社に直接来てほしい』と要請されるケースが多く、仕事を依頼されても(物理的な制約など)対応が難しく断っていました。しかし、コロナ禍で顧客企業の考え方が(副業者の)リモート勤務を認める方向に変わったことで、仕事が受けられるようになりました」。
そうして案件を徐々に増やし、契約数は10社に達した。それでも、副業時間は1週間当たり8-10時間に収めるなど、時間管理をうまくこなしている。これが実現できる背景としては、本業で勤務する企業側の理解も大きい。副業をすること自体はもちろん、その柔軟な運用が認められている。
「広報業務の一つにメディアへの情報提供がありますが、本業に関わる情報を伝える際に副業先の情報も合わせて伝えており、この時間は本業の一部として認められています。本業の勤め先には、同じ会社の話しか相手とできないより、多様な業界の情報を伝えられる広報の方がメディアにとっては価値になるという考えがあるためです。また、本業の勤務時間は基本フレックスなので、日中に副業することもできます」
とはいえ、初めから上手に時間管理できたわけではない。特に副業の案件を増やし始めた昨夏は逼迫したという。
「副業の仕事で徹夜が二日続いたり、土日もかかりっきりになったりしていました。当時は5社と契約していましたが、案件を増やしすぎたとも思いました」。
そこで仕事の内容を改めて精査し、その方法を変えた。具体的には、特に作業時間を割かざるを得なかったプレスリリースなど広報に関わる文書作成について、その業務は受けないか、再委託を認めてもらう形で、業務委託契約を結ぶようにした。その結果、業務が効率化されて副業時間をうまく管理できるようになり、案件をさらに増やせるようになった。現在は求められる業務に必要な労働時間を勘案した上で、1社あたり最低月10万円を基準に各社と相談して契約しているという。
副業によってこの女性が得ているものは収入だけではない。
「広報業務を本業だけで担っているのか、多様な企業で担っているのかで私の広報パーソンとしての市場価値は変わるはずです。副業は自分のキャリア形成につながると思っています」
本業とのバランスも良好で、今後も現状のスタイルで仕事を続けていく考えだ。
「本業は業務委託ではない分、裁量の大きい仕事を任されており、副業にはないやりがいがあります。副業を通して得た人脈や知見が本業で生かせています。あとは保険的な意味合いも。今後、産休や育休を取得したり、万が一に病気になったときの安心感のためですね。これからも今のペースで続けていきたいです」
やりがいの先の悲劇/メーカーの管理職・50代男性の場合
「あれが大きな間違いでした」―。メーカーで事務系の管理職を務める50代の男性は、副業が軌道に乗っていた昨秋の判断を苦笑いで振り返る。ウェブサイト向け記事などを作成するライティング業務の案件2つを抱えながら、3つ目の契約に踏み切ってしまったことを後悔する。
「2件ですでに手一杯でしたが、依頼主に『なんとかやって欲しい』とお願いされて(嬉しさもあり)受けてしまいました」。
案の定、それにより副業は逼迫した。本業をおろそかにせず、指定された期日に記事の作成を間に合わせるためには、平日深夜や休日の時間を使うほかなかった。副業に30時間以上を割いた週もあった。
「今まで飲んだことのないエナジードリンクを飲み、徹夜で作業しました。そうでなければ書き上がりませんでした。(副業のために)食事以外は自室にこもっていたり、旅行に自分だけ行けなかったりと、家族に迷惑をかけてしまいました」。
この男性は元々、副業にさして関心はなかった。収入は本業で十分だったし、コロナの影響も大きくなかった。ただ、コロナ禍で在宅勤務がメーンになり、通勤時間がなくなったことから、空いた時間を生かそうと7月ころに副業を始めた。クラウドソーシングサイトを閲覧し、どうせなら未経験の仕事をしようと思い、ライティング業務を選んだ。いざ始めて見ると、やりがいを感じたという。
「(クラウドソーシングサイトの)システム上でいい評価が付いたり、(依頼主から)『ありがとう』というメッセージが送られてきたりして嬉しかったですね。それが楽しくてどんどん仕事を受けていきました」
その結果、最終的には案件を抱えすぎて、時間を管理しきれなくなった。現在は、期限付きの仕事は受けておらず、随時クラウドソーシングサイトを閲覧しながら、興味が持てそうな案件を見つけた際には受けようと考えている。
この男性は、副業によって苦汁をなめたが、それでもよい経験だったと振り返る。
「今までに経験のない仕事で、ワードプレスといった(本業では触れない)アプリケーションを使うなど、とても勉強になりました。これからは家族との時間も大切に、小遣い程度でできればいいと考えています」
この記事は日刊工業新聞とYahoo!ニュースによる共同企画です。