コロナ禍で脚光の「ふるさと副業」。成功の必須条件

連載・変革する働く場を狙え #05

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コロナ禍に伴うリモートワークの拡大が副業の広がりを後押ししている(写真はイメージ)

地方の企業が経営課題の解決に首都圏の副業人材を活用する動きが広がり始めた。慢性的な人材不足にあえぐ中で、自社の成長につながるマーケティングなどの知見を首都圏人材に求めているためだ。首都圏人材もキャリア向上や地方貢献に資する副業に関心を示す人は多く、マッチング事例が増えてきた。新型コロナウイルス感染拡大に伴ってリモートワークが広がり、遠隔で仕事がしやすくなったことも追い風になっている。

とはいえ、副業人材の活用に関心を示す地方企業はまだ一部に過ぎない。その中で、地方企業と副業人材のマッチングを促す企業は、地方自治体や地域の金融機関と連携して地方企業による潜在需要の掘り起こしに汗を流している。(取材・葭本隆太)

和菓子屋のEC売上を増やす

「この会社や地域を第二のふるさとだと思ってもらえるように我々は努力します。末永いお付き合いをしましょう」―。柚子を使った奥能登輪島の名産和菓子「柚餅子」を製造販売する柚餅子総本家中浦屋(石川県輪島市)の中浦政克社長は、パソコン画面越しの副業者5人にそう声をかけた。11月8日に行われたオンライン会議だ。社長直下の新しい部署の下、副業者それぞれがスキルや知見を持ち寄ってネット通販の月間売上高を150万円増やす6ヶ月のプロジェクトをスタートさせた。

和菓子を扱う中浦屋は全国に顧客を求めたい業種ゆえ、ネット通販の充実は積年の課題だった。しかし、人手不足の中で専従のスタッフを採用できず、足踏みしていた。さらに中浦社長はコロナ禍でネット通販全般の需要が旺盛だったことも知り、危機感を増していた。そうした中で、10月に石川県主催の首都圏人材と交流するイベントに参加し、副業者の採用を決めた。

柚餅子総本家 中浦屋 わいち本店(左)と中浦政克社長(右)

「(ネット通販などに関わる)知識や知見を持つ人を採用できればと思い、イベントに応募しました。参加者たちの話を聞いて、その見識の高さに『こういった方を採用できるといいな』と思いました。ただ、経験や知見を持つ方は報酬もずいぶん必要になるので、1人を丸抱えするのは難しいと考えていました。その中で副業であれば1人月数万円で採用できると知り、それぞれ出来る範囲で仕事をしてほしいということで5人を採用しました」(中浦社長)。

副業者たちは地方貢献やキャリア向上などを目的に参画した。大手IT企業で宣伝・広報業務を担う30代の清水覚さんは「本業はテレワークが中心となり自分の時間が出来た中で、自分のリソースを地方企業に提供したいと思いました。首都圏人材が地方企業に貢献することで地方経済を活性化できるという思いがあります」と打ち明ける。

外資系メーカーでECを担当する40代の松岡留美さんは「石川県出身者として、石川には日の目を見ていないよいモノがたくさんあると思っており、自分のスキルでそれを伝えるサポートができればと考えていました。それにコロナ禍となり、ネガティブな経済ニュースが多くなる中で、会社員としてだけでなく自分の名前でお金を稼げるようになりたい思いもありました」と説明する。

新部署の名前は「デジマ次世代創造室」に決めた。次の世代の会社のあり方まで展望する部署にしようと名付けた。プロジェクトは6ヶ月を1つの区切りとし、その後に副業人材が入れ替わることも想定するが、新部署の取り組みが軌道に乗り、恒常的に続くことを中浦社長は望んでいる。

キャリアアップを目的に

地方企業が持つ経営課題の解決に自分のスキルを生かそうとするワーカーは多い。特に政府が「働き方改革」の一環で兼業・副業を推進するための指針を策定し、「副業元年」と言われた18年からは副業を解禁する企業が増え、副業市場に人材が流入した。コロナ禍に伴うテレワークの広がりも追い風になった。

地方企業と副業人材をつなぐサービス「Skill Shift(スキルシフト)」を運営するみらいワークス(東京都港区)ESG推進事業部の鈴木秀逸マネージャーが説明する。

「(18年に)ベンチャー企業がこぞって解禁しました。副業を解禁しないと優秀な人材を採用できないからです。それに大手企業の解禁が続き、キャリア向上を目的に副業したい人が増えました。コロナ禍に伴いテレワークが広がって通勤時間がなくなり、(キャリア向上に向けて)情報収集する時間が生まれたことも(副業に関心が向く)きっかけになっています。テレワークで仕事が成立するため、本業を副業先の地方から行うという考え方も出てきました」

その中で、「地方貢献」というキーワードは、副業に関心を持つワーカーの背中を押す効果があるという。リクルートキャリアは首都圏人材が地方で副業することを「ふるさと副業」と命名し、マッチング事業「サンカク」を展開してきた。同社の古賀敏幹マネジャーが指摘する。

「副業に興味はあるけど、一歩を踏み出せない人は多いです。そこで自分の出身地などゆかりのある地域に恩返しするという要素があると強い動機になり得ます」

副業人材を使う発想がない

一方、地方企業による副業人材活用の動きはまだ鈍い。人材不足という慢性的な課題を多くの企業が抱えていながら、受け入れ方が分からなかったり、そもそも活用する発想がなかったりするという。

こうした中で、マッチングを支援する企業は、地方自治体や地銀と連携しながら地方企業の潜在需要の掘り起こしに注力している。例えば、前出の中浦屋による副業人材の採用につながった石川県のイベントはリクルートキャリアが支援した。古賀マネジャーが力を込める。

「地方自治体は関係人口(※)を創出する事業を次々に始めており、地元企業の成長につながる副業人材の活用に対する関心がとても高いです。我々としてはその波に乗ることを重視しています」

※関係人口:地域や地域の人々と継続的に関わったり、多様に関わったりする人。そうした人の地域への想いやスキル、知見などを活用した地域課題の解決や地域経済の活性化などが期待される。

「スキルシフト」のみらいワークスは地銀との連携を20機関まで増やした。地方企業向けに経営課題を解決するセミナーを地銀と連携して開催し、副業人材の活用を提案している。

「地銀と組むことで顧客先に(副業人材活用の提案を)広められます。一方の地銀も18年に金融機関の人材紹介業務が解禁されたことで(副業人材を地元企業に紹介する)温度感は高まっています」(鈴木マネージャー)。

幸せなマッチングを実現する方法

もっとも副業人材を地方企業に紹介するだけでは、幸せなマッチングは生まれない。リクルートキャリアの古賀マネジャーが指摘する。

「(幸せなマッチングには)地方企業による受け入れ準備が大切です。副業人材を活用するプロジェクトを立ち上げる前に、『どれくらいの期間でどのような成果を目指すか』を明確にする必要があります。それをせずにスタートし、2ヶ月で頓挫したプロジェクトもありました。我々は(地方企業の経営課題に対して副業人材が解決するアイデアを出す)ワークショップ型のマッチングを行うことでそれを支援していきます」

石川県が10月に開催した首都圏人材と地方企業をつなぐオンラインイベント。石川県商工労働部労働企画課の曽根友之専門員は「社会人のU・Iターン促進がメーンだが、コロナ禍で地元企業の採用体力が低下する中で、副業人材を活用したい需要にも応えられるように企画した」と説明する

みらいワークスの鈴木マネージャーは、地方企業と副業人材との事前のコミュニケーションの重要性を強調する。

「地方企業の社長には(地銀と連携して行うセミナーなどを通して)外部の知見を活用するスタンスを持ち、(採用する前に)副業人材に根掘り葉掘り質問してほしいと話しています。売上を上げるための取り組みや必要な費用などを聞き、具体的な提案をしてくれて、その内容のイメージが沸く人を採用するのが正解だと伝えています」。

地方企業による副業人材の活用は「副業人材はたくさんいるのに(地方企業による)受け皿があまりない」(鈴木マネージャー)状況だ。とはいえ、マッチング数だけを追いすぎると、失敗するケースも増え、結果的に副業人材活用の機運がしぼむリスクがある。副業人材をどう受け入れ、どう活用すべきかを地方企業に啓蒙するマッチング支援企業の地道な取り組みは欠かせない。

連載・変革する働く場を狙え(全5回)

#01 コロナ禍で熱狂の郊外シェアオフィス、市場を制するのは誰か(12月7日公開)
 #02 家賃2万円上昇も。都心賃貸「徒歩0分」オフィス設置がトレンドに?(12月8日公開)
 #03 貸会議室大手のTKPが邁進、コロナ禍が変えたオフィス市場の勝ち筋(12月9日公開)
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 #05 コロナ禍で脚光の「ふるさと副業」。成功の必須条件(12月11日公開)

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

中浦屋さんは副業者との契約において1-2ヶ月に1度程度は現地に遊びに来るよう条件を付けたそうです。仕事のやりとりはオンラインがメーンになりますが、実際に成果を出していく上では会社に親近感を持ってもらったり、スタッフとコミュニケーションを取ってもらったりすることが大事だと考えているからです。一方の副業者もそうした交流を求めていると言います。コロナ禍によるテレワークの広がりは「ふるさと副業」の敷居を下げましたが、それを本当に成功させるためには対面のコミュニケーションも不可欠なのかもしれません。

キーワード
副業 地方創生

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