男性育休「中小は制度がない、大企業は言い出しにくい」それぞれの苦悩
「中小企業の7割が男性社員の育休取得義務化に反対」―2020年9月末に日本商工会議所と東京商工会議所が発表した内容だ。人手不足などを理由に男性育休取得に難色を示す回答が多かったという。大企業と中小企業で男性育休の取得状況や働く人の意識はどのような違いがあるのか。
2月12―22日、全国のYahoo!JAPANユーザーを対象にアンケートを行い、男性1000人から有効回答を得た。ここから、企業規模500人未満の中小企業(アルバイト・自営業含む)とそれ以上の大企業での傾向を調査した。
大企業と中小企業で取得状況に格差
まず、男性育休に対し、賛成反対を問うと、中小企業では、賛成45.9%、どちらかといえば賛成34.3%、どちらでもない(特に意見はない)16.4%、どちらかといえば反対2.7%、反対0.7%だった。大企業では、賛成48.6%、どちらかといえば賛成33.7%、どちらでもない(特に意見はない)12.5%、どちらかといえば反対3.3%、反対1.8%だった。大企業の方が賛成の割合がやや多かった。
・中小一方、「あなたが働く会社、組織の男性で育休を取った人はいますか」という問いでは大きな違いが見られた。中小企業では18.8%にとどまるのに対し、大企業では「はい」が53.2%と半数以上だった。
・中小企業実際に育休を取得した人をみてみると、小企業では9%、大企業では16%。いずれも1週間未満が最も多かった。
・中小企業育休を取得しなかった人に理由を聞くと、中小企業、大企業とも最も多かった回答は「制度がない」だった。しかし中小企業は28.3%、大企業は17.3%と大きな乖離があった。大企業では「持っている仕事を他人に任せられなかった」「言い出しにくかった」といった制度があっても職場での調整に苦慮する様子のほかに、「他に頼れる人がいる」「有給休暇を取得した」といった代替策を取った割合も多かった。
・中小企業育休を取得したことがない人に、「今後、機会があったら育休を取得したいと思いますか」と問うと、大企業では「取得したい」36%「どちらかといえば取得したい」23%、中小企業では「取得したい」34%「どちらかといえば取得したい」26%と、ほぼ同じ割合となった。
・中小中小企業が男性育休取得を推進するメリットとは
Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙氏は、中小企業の育休制度について、「大企業に先んじて取組むことに大きなメリットがある」と話す。中小企業には助成金が高めに支給されるほか、「育休制度が整っていることが周知されれば、採用活動にもプラスになる。若者の傾向を見ていると、ワークライフバランスを重視し、制度が整っている就職先を選んでいる」。例えば、新潟県長岡市のサカタ製作所は、残業ゼロ、男性育休取得率100%を達成したことでメディアに多く取り上げられた。応募が増え、地元に残る若者が出てきたという。
人材不足を懸念する声も多いが、「『家族を大切にしたいという思いが認められない』と、育休がとれないことで離職を考える人も多くいる。グラフの通り男性の育休取得期間は非常に短期。それはそれで問題でもあるが、半年以上の人は0.7%いる。この層を増やすよう、長期的な視点で考えるべき」と強調する。先んじて取り組まなければ、すでに取組みつつある大企業に人が集中し、さらに人材獲得が難しくなる、という負のループに陥りかねない。
天野氏と共著で本を出版した株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵氏らが取り組む「男性育休100%宣言」に賛同し取組みを進める企業は2年間で100社になった。「経営者の意識は確実に変わりつつある。取り組むべきことは明確なので、特に中小企業はすぐにでも前向きに取り組んでほしい」(天野氏)。
この記事は日刊工業新聞とYahoo!ニュースによる共同企画です。