急きょ1年早まった日立の社長交代。後任は「DXの申し子」
日立製作所は小島啓二副社長(64)が6月23日の定時株主総会後に社長へ昇格する。リンパ腫の再発した中西宏明会長(75)が治療に専念するため5月12日付で退任し、東原敏昭社長兼最高経営責任者(CEO、66)が会長職を株主総会まで兼務する。東原社長は当初、中西会長が経団連会長の任期を終える22年の社長交代を計画していたとみられるが、急きょ1年早まった形だ。
当面は二頭体制が続く。新たな経営陣の眼前には巨額買収の成果刈り取りのほか、デジタル変革(DX)や脱炭素化への対応など難題が待ち受けている。小島副社長は研究開発畑が長かった。直近は長年課題の家電や自動車部品、ヘルスケア事業を担当、構造改革を指揮してきた。東原社長は「グローバルでキャリアを積み、IoT共通基盤『ルマーダ』の海外展開を加速するのに最適」と次期社長を評した。小島副社長は「これまで以上にオープンでダイナミックな会社にしたい」と抱負を語る。
また、「歴代の社長から引き継ぐ最大の財産はグローバルな人材だ。彼ら・彼女らと徹底的にコミュニケーションをとり、次の日立をつくっていくことが大きな使命だ」と対話中心のリーダーを目指す考え。日立は近年、スイス・ABBの送配電事業などの巨額買収を繰り返し、海外売上高比率は2021年度に57%を見込む。獲得したアセット(資産)の生かし方が中長期的な成長を左右しそうだ。
成長戦略の軸は変わらず、IoT(モノのインターネット)共通基盤「ルマーダ」だ。小島副社長は「ルマーダはシステム構築系事業で顧客協創型への転換が相当進んだが、次は鉄道や送配電など製品系事業へ展開する必要がある。そして、まだ国内中心のルマーダをいかにグローバル展開していくかだ」と今後の課題を示す。
【記者から見た次期社長】デジタル変革(DX)時代の申し子が満を持して登場する。1982年の入社とともに中央研究所に配属され、最初の研究テーマが「データベースの高速化」だった。
その後は米国駐在などを経て、主要な研究所の所長を歴任。“研究所のプリンス”として順調なキャリアを歩んできたが、「データからの価値創出」がライフワークであった。今や日立製作所の針路そのものだ。
副社長として19年以降、課題事業の構造改革を任された。「ものすごく難しいオペレーションを確実に実行した」(東原敏昭社長)と次期社長への“最終試験”を無事クリアした。
仕事上の信条は「有言実行」と頼もしい。社外から心配の声もあがる相次ぐ巨額買収の成果刈り取りで早速その手腕を発揮してほしい。
(文=鈴木岳志)【略歴】小島啓二氏(こじま・けいじ)82年(昭57)京大院理学研究科修了、同年日立製作所入社。08年中央研究所長、11年日立研究所所長、14年常務CTO、16年専務、18年副社長。東京都出身。
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