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専用のタワマンまで?住宅企業「猫に照準」の事情

専用のタワマンまで?住宅企業「猫に照準」の事情

大和ハウスの猫専用ユニットバス「ネコレット」

住宅関連企業が猫に照準を合わせた製品を相次ぎ打ち出している。大和ハウス工業は自社の住宅購入者に猫専用の水洗トイレとシャワーが付いたユニットバスを発売。LIXILは猫がジャンプして動き回れる遊び道具「猫壁(にゃんぺき)」を開発した。コロナ禍で在宅時間が増え、2020年に新たに飼育された猫の数は前年比で2ケタ増となった。各社とも自社の製品を通じ飼い主が猫の世話を楽にできるような仕掛けに工夫を凝らす。(大城麻木乃)

飼育の負担軽減に一工夫

大和ハウス工業は2月22日の猫の日に合わせ、猫が用を足すと自動で洗浄するユニットバス「ネコレット」を発売した。

きっかけは3匹の猫を飼っているアーティストの中村正人さんからの提案だ。毎日、猫の下の世話に苦労するため、何とかしてほしいとの依頼があり、いわば「猫の自動水洗トイレ」(住宅事業本部の佐藤文氏)を製品化した。センサーで猫がトイレから出たことを感知し、水を流す仕組みだ。

一般的に猫を飼う人は「多頭飼いが多い」(同)。ペットフード協会(東京都千代田区)によれば、1世帯当たりの平均飼育頭数は犬が1・25に対し、猫は1・75と、ほぼ2匹飼っている。必然的に下の世話が大変になり、自動水栓のニーズは大きい。

ネコレットの価格は36万3000円とやや割高なため、飛ぶように売れているわけではないが、「他社の住宅を購入した顧客からも買いたいとの声が多い」(佐藤氏)という。自社の住宅に合わせて作り込んだため、他社製向けには出していないが、「目下、外販を準備中」(同)としている。

LIXILはL字型、箱型、トンネル型の部材をマグネットで壁に取り付け、猫が部材に乗って遊べる製品「猫壁(にゃんぺき)」を開発し、20年12月にクラウドファンディングサイト「マクアケ」で発売した。

LIXILの遊び道具「猫壁」

マグネットを使えるように、事前に鉄板を壁にはる工事が必要なため、「当初は工事のハードルが高く100万円の販売目標は達成に1週間ぐらいかかると考えていた」(ビジネスインキュベーションセンターの藤原未帆氏)という。

ところが、ふたを開けると「発売当日の数時間で完売になった」(同)。結局、3月1日まで販売を続け、1762万円売れたという。

新製品はマグネットで動かせるため、猫の成長度合いに応じて自由に動かせるのが特徴だ。例えば、最近は猫も高齢化しており、ジャンプ力が弱まってくれば、段差を低く設定してあげられる。

また表面素材のフェルト生地は硬めの上質なものを使用し、「猫が爪とぎをしても破れないよう工夫した」(同)。

市販の猫関連グッズには中国製の安い価格帯が多いことから、意識的に価格は13万5000円からと高めに設定。マクアケでの売れ行きは好調だったため、年内に正式な製品として販売を予定する。

積水化学工業住宅カンパニーは、9日に発売した賃貸住宅「ハイムメゾン」のニューノーマル対応モデルで、ペット専用出入り口の設置をうたった。従来は顧客から要望があれば取り付けることはあったが、コロナ禍でペットを飼う人が増えたことを受け、新モデルでは発売時の売り込み文句の一つにペット対応を盛り込んだ。

積水化学の賃貸マンションのペット専用出入り口

三菱地所レジデンスはコロナ禍で暗くなりがちだった20年6月、猫好きの社員が集まり、猫専用のタワーマンションをつくるという設定の動画を動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信した。

猫タワマンは4階建てで、1階は脱臭素材を盛り込んだトイレ、4階は屋上といった具合。あくまでも本当に建設することが目的ではなく、「当社のモノづくりへのこだわりを示すのが狙いだった」(三菱地所レジデンス)。21年4月までに350万回の再生があり、「多くの反響をいただいた」(同)と、手応えを感じている。まだ製品化のめどは立っていないが、「実現を模索していきたい」(同)と夢は広がる。

三菱地所レジデンスの猫タワマン

「在宅」増え ペットに癒やし

ペットフード協会によると、20年に新規で飼育した人による猫の飼育頭数は48万3000頭と前年比16%増加した。同協会は「コロナ禍でペットとの生活から癒やしを求め、家族内でのコミュニケーションを深めている傾向がうかがえる」と分析する。

ペットを飼うと、家の中の決められた場所で用を足すよう訓練する「トイレトレーニング」が必要だ。在宅勤務が増えたことで、「以前よりもトイレトレーニングに時間が取れるようになった」(大和ハウスの佐藤氏)ことも飼うことを後押ししている。

住宅関連企業が犬よりも猫に力を入れている理由の一つとして、猫の方が飼育頭数が多いことがある。同協会の調査では、20年で犬の飼育頭数が848万9000頭に対し、猫は964万4000頭と、猫の方が115万頭多い。犬は外飼いもできるのに対し、猫は外で飼うと逃げてしまうことから、ほとんどが室内飼いという理由もある。犬は小型犬から大型犬まで体のサイズの振れ幅が大きいのに対し、「猫はおおむね体の大きさが決まっており、専用の製品をつくりやすい」(佐藤氏)といった理由もある。

最近は新規でペットを飼い始めた人が増え、慣れていないために上手に飼えず、結果的に捨ててしまう現象が社会問題になっている。住宅メーカーなどから飼い主の負担を軽減する住宅や関連グッズが増えてくれば、社会問題を解決する一助になりそうだ。

日刊工業新聞2021年4月30日

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