動物の高度医療センターが「IoT」で変えたい現実
連載・とびだせアニマルテック(2)
神奈川県川崎市にある日本動物高度医療センター(JARMeC)には重篤な疾患などを抱え、かかりつけ動物病院の紹介を受けた犬や猫が診察に連れられてくる。二次診療施設という性格ゆえに飼い主が気づいた時には重篤化していた症例を数多く目の当たりにしてきた。このため、同センターにとって疾患を早期に発見し、重篤化を防ぐ予防獣医療の実現は悲願だ。その実現に向け2月に新たな一歩を踏み出した。医療機関であるセンター自らが開発したIoT(モノのインターネット)端末を活用し、獣医療の現場を変革しようとしている。
「飼い主が異変に早く気づく仕組みで獣医療の機器としても使える製品を作りたかった」。日本動物高度医療センター事業開発部の山本誠課長は2月に提供を始めたIoT製品「プラスサイクル」についてそう説明する。同製品は犬や猫の首輪やハーネスなどに装着することで、1日の活動量やジャンプ回数を可視化できる。飼い主はブルートゥースで製品と接続したスマートフォンのアプリでそれを確認できる。活動量などが過去1週間の平均に対し、20%以上を2日連続で下回ると、その異変をアプリで知らせる。日常生活の様子から異常を早期に発見し、飼い主が動物病院に相談するきっかけを作る。
開発を始めたのは5年ほど前。「動物たちは疾患を抱えていても飼い主の前では元気な姿を見せてしまい、結果的に飼い主が異変になかなか気づくことができない」(山本課長)という課題の解消を目指した。疾患を抱えた動物の初期の行動として現れる飼い主の見ていないところなどでぐったりする様子を活動量計で検知することで、疾患の早期発見につながると考えた。そこで3軸加速度センサーの数値を使って動物の細かい動きをなるべく拾えるように試験やデータの分析を繰り返し、活動量を計るプログラムを構築した。
気圧センサーの採用により、ジャンプ数を測定する機能を設けた点も特徴だ。犬や猫は高齢になるとひざや脊椎などが炎症を起こしやすくなると報告されており、そうした疾患を抱えた犬や猫の最初の症状がジャンプ回数の減少という。山本課長は「ジャンプ回数の減少を早期に検知し、鎮痛剤などを適切に処方してあげれば、動けて食事もできる。QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)が向上できる」と力を込める。
一方、製品は小型の犬や猫にも取り付けられるように直径27ミリメートル×厚さ9.1ミリメートルとコンパクトなサイズに設計した。また、電池は取り替えが容易なボタン式を採用した。「充電式は充電のために取り外している最中に異変が起きるリスクを考慮し、採用しなかった」(山本課長)という。
プラスサイクルは現在、全国約160施設の動物病院やJARMeCのウェブサイトを通して販売している。疾患を抱えるペットの状態をよく確認したり、留守中の活動状況を把握したりする用途で取り付けるなど、事例は少ないながらも利用する飼い主が出てきた。また、プラスサイクルで得たデータを治療に役立てたいという声が聞かれるなど獣医師の関心も高まっている。
とはいえ、山本課長は現状の性能に満足していない。「(活動量の計測や異変と判断する閾値などの)精度をもっと高めたい」(山本課長)と意気込む。さらに将来は単純な「異変」ではなく活動量などの変化から具体的な疾患の特定に結びつけられるのが理想だ。そのため、利用者を増やしてデータの蓄積を加速し、医療現場の知見を生かしながら分析を繰り返す考えだ。分析に関しては人工知能(AI)研究者との共同研究なども模索している。
動物の活動量を計測する端末は過去にシステム会社などが提供した製品があったが、山本課長は医療機関が提供する意義は大きいと自負する。「動物病院とつながりを持っている我々が開発した製品だからこそ、プラスサイクルのデータは獣医師に信頼してもらえる。飼い主が異変に気づいた際にそのデータを見せて獣医師に相談できる。予防獣医療の実現を目指す我々がやらなくては誰がやるのか」(山本課長)と力を込める。
プラスサイクル概要
■価格:9720円(消費税込み・送料無料)
■電源:ボタン電池(交換頻度:3-4ヶ月)
■大きさ:直径27㎜×厚さ9.1㎜
■重さ:約9グラム
■通信方式:Bluetooth
■測定方法:3軸加速度センサー+気圧センサー(40㎝以上の場所にジャンプした回数をカウント)
■メモリ:約5日(120時間)
■色:2種類>
【連載】とびだせアニマルテック
さまざまなサービスや製品が登場しているアニマルテック。ニュースイッチ編集部員それぞれが注目したアニマルテックを紹介していく連載です。>
獣医療で使える機器
「飼い主が異変に早く気づく仕組みで獣医療の機器としても使える製品を作りたかった」。日本動物高度医療センター事業開発部の山本誠課長は2月に提供を始めたIoT製品「プラスサイクル」についてそう説明する。同製品は犬や猫の首輪やハーネスなどに装着することで、1日の活動量やジャンプ回数を可視化できる。飼い主はブルートゥースで製品と接続したスマートフォンのアプリでそれを確認できる。活動量などが過去1週間の平均に対し、20%以上を2日連続で下回ると、その異変をアプリで知らせる。日常生活の様子から異常を早期に発見し、飼い主が動物病院に相談するきっかけを作る。
開発を始めたのは5年ほど前。「動物たちは疾患を抱えていても飼い主の前では元気な姿を見せてしまい、結果的に飼い主が異変になかなか気づくことができない」(山本課長)という課題の解消を目指した。疾患を抱えた動物の初期の行動として現れる飼い主の見ていないところなどでぐったりする様子を活動量計で検知することで、疾患の早期発見につながると考えた。そこで3軸加速度センサーの数値を使って動物の細かい動きをなるべく拾えるように試験やデータの分析を繰り返し、活動量を計るプログラムを構築した。
気圧センサーの採用により、ジャンプ数を測定する機能を設けた点も特徴だ。犬や猫は高齢になるとひざや脊椎などが炎症を起こしやすくなると報告されており、そうした疾患を抱えた犬や猫の最初の症状がジャンプ回数の減少という。山本課長は「ジャンプ回数の減少を早期に検知し、鎮痛剤などを適切に処方してあげれば、動けて食事もできる。QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)が向上できる」と力を込める。
一方、製品は小型の犬や猫にも取り付けられるように直径27ミリメートル×厚さ9.1ミリメートルとコンパクトなサイズに設計した。また、電池は取り替えが容易なボタン式を採用した。「充電式は充電のために取り外している最中に異変が起きるリスクを考慮し、採用しなかった」(山本課長)という。
獣医師の関心高く
プラスサイクルは現在、全国約160施設の動物病院やJARMeCのウェブサイトを通して販売している。疾患を抱えるペットの状態をよく確認したり、留守中の活動状況を把握したりする用途で取り付けるなど、事例は少ないながらも利用する飼い主が出てきた。また、プラスサイクルで得たデータを治療に役立てたいという声が聞かれるなど獣医師の関心も高まっている。
とはいえ、山本課長は現状の性能に満足していない。「(活動量の計測や異変と判断する閾値などの)精度をもっと高めたい」(山本課長)と意気込む。さらに将来は単純な「異変」ではなく活動量などの変化から具体的な疾患の特定に結びつけられるのが理想だ。そのため、利用者を増やしてデータの蓄積を加速し、医療現場の知見を生かしながら分析を繰り返す考えだ。分析に関しては人工知能(AI)研究者との共同研究なども模索している。
動物の活動量を計測する端末は過去にシステム会社などが提供した製品があったが、山本課長は医療機関が提供する意義は大きいと自負する。「動物病院とつながりを持っている我々が開発した製品だからこそ、プラスサイクルのデータは獣医師に信頼してもらえる。飼い主が異変に気づいた際にそのデータを見せて獣医師に相談できる。予防獣医療の実現を目指す我々がやらなくては誰がやるのか」(山本課長)と力を込める。
■価格:9720円(消費税込み・送料無料)
■電源:ボタン電池(交換頻度:3-4ヶ月)
■大きさ:直径27㎜×厚さ9.1㎜
■重さ:約9グラム
■通信方式:Bluetooth
■測定方法:3軸加速度センサー+気圧センサー(40㎝以上の場所にジャンプした回数をカウント)
■メモリ:約5日(120時間)
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