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「ベテランの経験や勘に頼らない」。材料性能を予測するAIとは?

高速・高精度予測を実現

自動車や電機メーカーなどの研究開発部門では、目的の性能を有する素材をいかに早く開発し、製品を市場投入できるかが成長のカギとなる。持続可能な開発目標(SDGs)の達成という観点からも、物質や材料のデータを駆使する材料開発手法「マテリアルズインフォマティクス(MI)」が注目される中、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)はニューラルネットワークを活用したシミュレーション結果の解析機能を提供する。

膨大な計算科学データから、材料の性能を予測する(CTC提供)

「ベテランの経験や勘に頼らず、目的の高機能材料を迅速に開発できる技術が求められている」―。科学システム本部の添田朋宏CAEソリューション営業部長代行は、新機能開発の経緯をこう話す。

工期短縮実現

CTCでは材料設計や開発を支援する解析ソリューションを多数提供している。2018年からは米エクサバイト(カリフォルニア州)のナノ解析クラウドサービス「エクサバイト・アイオー」を提供。材料開発のコストと期間削減に貢献してきた。これらソリューションを利用する顧客からも「さらなる工期短縮を実現したいという声が挙がっていた」(添田部長代行)という。

新機能では、クラウドコンピューティングを利用して高速かつ大量に生成した計算科学データを基に、人工知能(AI)に素材の構造や性能を学習させることで材料の性能予測を可能にしている。

東北大と開発

東北大学と行った研究開発ではニューラルネットワークを活用し、研磨剤や触媒、燃料電池などに利用される酸化セリウムの融点を予測した。温度、圧力、座標、格子定数などの結晶構造に関する3万ものデータを学習させることで、予測モデルを構築した。

市場動向見極め

東北大ではこの実験に約1年、結果の計算に半年もの時間を要していたというが、結晶構造を入力すれば、わずか数秒で予測結果を導き出すことができるようになった。高速かつ高精度な予測が実現できたため、20年11月に新機能として提供に踏み切ったという。

研究データが多ければその分AIによる予測精度も高まる。同機能はクラウドサービスとして提供するため、計算の負荷に合わせてコンピューターリソースの増減を柔軟に行うことができる。システム負荷の高い計算も対応可能だ。

添田部長代行は「市場動向を見極めながら、電池材料や半導体メーカーなど向けに3年間で100社への提供を目指す」としている。(取材・狐塚真子)

日刊工業新聞2021年4月16日

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