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【新型コロナ】在宅勤務でオンラインの「巣ごもり学習」、定着のカギは「世帯」への訴求
新型コロナウイルスの感染拡大で職場や学校がオンラインに移行している。在宅勤務により、親子が同じ部屋で互いの働く姿と学ぶ姿を見ることで、大人も自身の学び直しのきっかけにもなっているという。実際に大規模公開オンライン講座(MOOC)などの利用数は急伸している。オンラインで大人の学びは定着するか課題を探った。(小寺貴之)
社会人の隙間時間狙う
「サーバーが悲鳴を上げている」とグロービス(東京都千代田区)の寺内健朗デジタルプラットフォームチームリーダーは苦笑いする。新人向けオンライン動画学習サービスの受講数が急増した。ID数は3万8200人を突破。この規模は大卒の就業希望者の約9%に当たる。
日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)の無償講座も3月の利用者数が前年同月比66%増となった。新年度が始まった4月1―20日は前年同期比で8・0倍に膨らんでいる。JMOOCの深沢良彰副理事長(早稲田大学教授)は「大学など学校の授業もオンラインに移行している。一つの家で、両親はオンラインで働き、子どもはオンラインで学び、就活もする家庭が増えている」と指摘する。
オンライン学習は暮らしの隙間時間に入り込むようコンテンツを作成してきた。例えばJMOOCは1本の講義を5―10分に区切り視聴しやすくしている。5―10本の動画と小テストで1週間分の授業を構成。最終試験を合格すると修了証が発行される。
グロービスの学習サービス「グロービス学び放題」は1本の動画を3分程度に短くし、電車1駅分の時間でも視聴が完結するよう工夫した。
同事業の鳥潟幸志リーダーは「要点を動画の冒頭で伝えて学びたいことと合っているか確認できるように設計している。結果、最後まで見る割合が約9割に上る」と胸を張る。受講者は内容が合っていない場合はすぐに違う講義を探せる。
同社では動画の離脱率や離脱タイミングを分析し、コンテンツを改善してきた。冒頭で離脱した人はテーマの不一致、動画を7割ほどみて離脱した人はテーマよりも伝え方のミスマッチと分析できる。鳥潟リーダーは「伝える内容は同じでも、表現やプロセスを変える。データを駆使すると緻密な改善ができる」と説明する。
オンライン教育は現実世界での暮らしの隙間を狙ってきたが、今後はオンラインを前提に学びつつ働く世帯が増えることが見込まれる。IT技術者がプログラミング言語の教科書をめくりながらコードを書くように、オンライン講座も仕事に使うツールとしての側面が問われる。
動画から音声認識でテキストを起こし、プレゼンテーション資料と結び付ける技術は既にある。検索性と閲覧性が向上すれば仕事中に参照しやすくなる。JMOOCの深沢副理事長は「講座の要約やメタデータ(データの特性情報)を自動生成する技術がカギになる。技術自体は近く実現する」と指摘する。
実践的なプログラム準備 暗号資産・AI、実務家が講師
社会人が求めるのはより実践的な学びだ。ベネッセコーポレーションが提携運営するUdemyは、エンジニアやビジネスパーソンなどの実務家が講座を展開する。各領域で新技術が開発されてから、大学などで体系的な学習が確立される期間を待たずに、実務家が講座を提供する。例えば暗号資産(仮想通貨)「ビットコイン」の講座は2013年4月に始まっている。同通貨が一般にも知れ渡るようになったのは17年。その4年前から学べる環境にあった。
個人が個人に教えるC2Cモデルは、新技術や経営手法が見いだされてから学習コンテンツになるまでの期間が短い。コンテンツの多様さと鮮度を担保できる。質は受講生からのレビューを元に評価する。世界では15万以上の講座があるが、約4000講座に絞って日本企業に定額制で提供している。豊田通商は全社的に導入した。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は人工知能(AI)人材育成に利用する。講座の講師を招いてワークショップを開き、オンラインとオフラインの学ぶ機会を提供している。
大学のような体系的な学びをMOOCなどのスポット的な学びで補完するなど、学習の機会も多様化してきた。選択肢が広がると、個人はどのように学んでいくべきか指針が欲しくなる。ただキャリアは百人百様だ。
そこでUdemyはユーザー同士で、学習プロセスを会員制交流サイト(SNS)などで共有している。
ベネッセの菊井顕治課長は「Udemy以外の教材を含め、何をどのように学んだかそのプロセスや経験をシェアする。学歴よりも学習歴が評価される社会になっていく」と展望する。
モチベーション持続が課題 学習離脱率の改善カギ
こうした流れはコロナ禍が収束した後も定着するだろうか。例えばオンライン学習は離脱率の高さが課題だった。テレワークで独りで働く場面が増えると自身でモチベーションをコントロールする大切さに気が付く。オンラインを前提とした働き方が学び方に影響し、学習離脱率が改善するかもしれない。
野村総合研究所の武田佳奈上級コンサルタントは「意識も行動も変わった。だが定着するかどうかはわからない」と指摘する。これまでオンライン学習は感度の高いアーリーアダプター(初期採用者)に支えられてきた。課題に対して要求は高いが新しいサービスを育てようと志向する。
そこに慎重なレイトマジョリティー(後期追随者)を含め、コロナ禍で一斉に職場や教室のオンライン化が進んだ。慎重派は不便だと静かに離れていく。アーリーアダプターとは違った課題抽出と改善が求められる。
家族のサポート大切に
カギとなるのは家族やパートナーの存在だ。若い世代に共働き世帯が増え、仕事と子育てに自身の学びと、時間繰りが逼迫(ひっぱく)している。一方でキャリアも家庭も両立させたい「フルキャリ」という層が男女ともに増えている。
武田上級コンサルタントは「家事などの隙間時間に学べ、小さくとも成長を感じられるツールは非常に有効」と説明する。育休をとる社員は職場から期待されていることをパートナーに伝え、仲間になってもらう企業もある。忙しい個人を惹きつけるため世帯単位で訴求する仕掛けはオンライン学習にも展開できる。
くしくもテレワークで家で一緒に働き、学ぶ機会は増えた。MBA(経営学修士)の勉強など、お互いの職場の機密に触れずに相談し合えるテーマもある。子供の休校に影響される家庭にこそ学び直しを定着させるヒントがあるのかもしれない。
【追記コメント】
オンライン学習サービスは受講生のモチベーションを支えるために、SNSなどでコミュニティー活動に力を入れてきました。チャットツールで質問や議論の場を設けたり、ビデオ会議で飲み会を開いたりと、コロナ禍で進む職場のオンライン化を先行していた面があります。この輪の中に嫁や旦那などの、受講生のパートナーを巻き込むことができるでしょうか。ベンチャーでは産休・育休後の復職率を上げるために、パートナーを交えて当人への期待や休職中に学べること、復職後のキャリアを話し合う機会を設ける会社があるそうです。
会社として「当人に期待しているから家事や育児を手伝ってあげてね」とは言えませんが、伝わるものはあるはずです。家庭の協力が得られるなら二人で交互に使う勉強部屋、仕事部屋として書斎が復活するかもしれません。いまは洗濯物が干されていたり、物置や書庫になっていても、交代で集中して作業する空間としてスペースをとれるといいなと思います。