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完全人工光型植物工場の実証スタート、寒冷地に最適栽培の確立なるか

完全人工光型植物工場の実証スタート、寒冷地に最適栽培の確立なるか

ドーム内で行われるレタスの栽培。センサーで温度や湿度を維持

北海道電力は完全人工光型植物工場の実証実験を3月にスタートした。十数年前から研究開発を続けてきた発光ダイオード(LED)利用技術や寒冷地向けヒートポンプなどの知見を集約し、寒冷地に適した植物栽培の確立を目指す。農業分野での知的財産の開放を進め、異分野の企業や地域との共創で、高付加価値の農業を実現することに寄与する考えだ。(札幌・市川徹)

ドーム型ハウス

実証実験は北電、農業生産法人輝楽里(北海道江別市)、江別ヤマト種苗(同)が行う。江別市美原にある輝楽里の農地内にドーム型ハウスを建設し、レタスとイチゴの生産に取り組む。

建屋はジャパンドームハウス(石川県加賀市)が販売するドーム型ハウスを採用した。農地で農作物を栽培することから、建築確認申請が不要だ。厚さ200ミリメートルの特殊発泡ポリスチレン製のため、高断熱・高気密・高強度に優れている。

実証では全長30メートル、幅7・7メートル、延べ床面積約230平方メートルのドーム型ハウスを使用する。多段型水耕栽培ユニットを11台並べ、9台をレタス用、2台をイチゴ用に使う。

ハウス内には高さ約2メートルの6段ユニットにレタスの苗を置き、養液を含んだ水を循環させる。1ユニット当たり最大720株の栽培が可能。土を使わないため害虫の発生がなく、水分の汚れもほとんどない。

室内は高効率ヒートポンプエアコンにより室温が一定に保たれ、ユニット内の水温などもセンサーで自動的にコントロールする。光源のLEDはユニットごとに光量が細かく調整できる。

メリットは多い。建屋もユニットも、モジュールタイプで大きさや数など自由に設定が可能。設置スペースの広さや大きさに合わせて作ることができる。栽培に必要な物のほぼすべてを市販品で賄えるため、個別に新しく開発する必要がないことも大きい。

実証システムの外観。ビニールハウスだと積雪でつぶれてしまう課題を解消

変色を防ぐ

北電では2008年から植物工場で使うLEDの開発を開始し、17年に製品化した「ポテライト」というLED照明装置がある。ジャガイモは通常の白色灯が当たると緑色に変色してしまう。そのため貯蔵庫では薄暗い中での作業を余儀なくされていた。そのため白色LEDを使い、そこに緑化を防ぐ赤色LEDを加えた。

12年度から今金町農業協同組合(JA今金町、北海道今金町)との試験を5年間続け、19年度農業電化推進コンクールで大賞に輝いた。今回の植物工場モデルはこうしたノウハウと知財のLED技術を最大限利用する。

研究開発の中心を担う、ほくでん総合研究所長の皆川和志常務執行役員は「今回はドーム型ハウスを建てて実験しているが、北海道の建物は元々気密性が高く高断熱。それを考え合わせれば、使われなくなった事務所や家屋内でも水耕栽培が可能だ」と話し、柔軟な発想とアイデアによる事業化を示唆する。

北海道は日本の食料基地に位置付けられる一方、後継者難や人手不足で危機に直面している。北電は課題解決のため知財を生かした研究を進める。

日刊工業新聞2021年4月5日

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