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「はやぶさ2」成功のウラに架空小惑星の存在あり、リアリティーを追求した運用訓練

実機と同じ動き再現
「はやぶさ2」成功のウラに架空小惑星の存在あり、リアリティーを追求した運用訓練

「画像生成装置」による架空の小惑星「リュウゴイド」の模擬画像例-全景(JAXA提供)

はやぶさ2帰還

2020年12月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」が6年間に及ぶ深宇宙航行を経て地球へと帰還した。想定を遥かに超えて岩だらけの小惑星「リュウグウ」と対峙(たいじ)し、サンプルを持ち帰るとともに多くの世界初を成し遂げることができた。その過程で大きな役割を果たしたのが「運用訓練技術」である。

運用訓練技術は、国際宇宙ステーション(ISS)や宇宙ステーション補給機こうのとり(HTV)など、安全性・信頼性が高いレベルで求められるわが国の有人宇宙開発を支えている技術である。はやぶさ2ではHTVを参考に、日本の深宇宙探査ミッションとして初めて「探査機シミュレータ」を駆使した実時間の「運用訓練」を取り入れた。

やぶさ2開発時に作られた試験用機器をつなぎ合わせ、実機と電気的に同じ動きをする「探査機シミュレータ」を製作し、現実の管制室と接続した。小惑星探査ならではの「リアリティー」を追求するため、我々は二つの装置を開発した。

現実感追求

一つ目は「画像生成装置」である。探査機を小惑星表面へ誘導するためには搭載カメラで撮影した小惑星画像が必要となる。3次元グラフィックスにより架空の小惑星「リュウゴイド」を作成し、シミュレーター内の撮影指示に対してリアルタイムな模擬画像出力を実現した。

「画像生成装置」による架空の小惑星「リュウゴイド」の模擬画像例-表面と探査機の陰影(JAXA提供)

二つ目は「遅延装置」である。3億キロメートル先のリュウグウに滞在する探査機と地上の通信には片道20分の時間遅れが存在する。これを管制室・シミュレーター間に設置した「遅延装置」によって再現したのだ。

これらの工夫が訓練の臨場感を劇的に高め、得られた「リアリティー」によって運用チームは「本物の探査機を操作する感覚」で訓練へ取り組むことができた。

さらに訓練方法にも二つの工夫を施した。一つ目はアジャイル型開発を参考にした「繰り返し訓練計画」である。訓練期間を約3カ月単位の「節」に分割し、前節の課題を次節の手順に反映した。リュウグウ到着までに4節を繰り返し、バグを洗い出した。結果、頑強な運用手順・探査機設定が仕上がった。

二つ目は「異常ケースの出題」である。訓練中にシミュレーター上の探査機から地上の機器に至るまで数多くの異常事態を「意図的に」発生させ、対処する訓練を繰り返すことで、運用チームの対処能力・手順が格段に磨かれた。

「想定外」対処

このような独自の訓練を経て運用の完成度を事前に高めたことが、リュウグウ到着後の「想定外」に集中対処する余力を生み、成果につながったと分析している。はやぶさ2の「運用訓練」には民間企業も携わっており、民生分野への波及も期待される。今後は「運用訓練技術」を伝承・改良し、次期深宇宙探査計画におけるさらなるミッション成功へ挑んでいきたい。(月曜日に掲載)

◇研究開発部門 第一研究ユニット 研究開発員(宇宙科学研究所 はやぶさ2プロジェクトチーム併任) 武井悠人

山形県出身。博士(工学)。15年入社。東京工業大学大学院博士課程修了。小惑星探査機「はやぶさ2」のシステム担当・フライトディレクタとして運用立案・指揮を担当。専門は宇宙機の軌道/姿勢/マニピュレーターの力学と制御、深宇宙航行技術。

日刊工業新聞2021年3月1日

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