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はやぶさ2が貢献、地球を守る「プラネタリー・ディフェンス」とは?

はやぶさ2が貢献、地球を守る「プラネタリー・ディフェンス」とは?

右ははやぶさ2搭載の衝突装置の切り離しの想像図。左は衝突装置の運用(JAXA提供)

世界では年に数回、隕石(いんせき)の落下が確認されている。日本でも7月に関東上空で目撃された火球の一部が、千葉県習志野市で隕石として発見され話題になった。地球に隕石や小惑星が衝突することが事前に分かり、それを防げれば地球上の生態系や環境の変化への影響を妨げられる。天体の地球衝突による災害を防ぐ活動「プラネタリー・ディフェンス」が注目されている。

【素性を調べる】

天体の地球衝突は約6600万年前に直径10キロメートルほどの小惑星が衝突し、恐竜を含めた多くの生物が滅んだという仮説が有名だ。だが、大きな天体の衝突は数億年単位でしか起こらない。一方で、数十メートルの小さな天体は数十―百年に一度の割合で衝突しており、現実的に衝突する可能性がある天体を調べることが求められている。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」は12月6日にも地球帰還後、調査のために直径数十メートルの新たな小惑星に向かう。この小惑星は地球に衝突すれば大きな被害が出る大きさだ。そのため、小惑星の表面の状態や構成する物質など素性を調べることで、地球への衝突を防ぐ対策を検討できる。JAXAの吉川真はやぶさ2ミッションマネージャは「はやぶさ2が新たな小惑星探査を行うことで、プラネタリー・ディフェンスに貢献できる」と、今後のミッションに期待する。

【接近そらす】

日本ではプラネタリー・ディフェンスの研究は進んでいないが、米国では宇宙空間での実験や検討が行われている。SF映画では小惑星や彗星(すいせい)などにロケットで宇宙飛行士が向かい天体を爆発させて地球への接近を防ぐ場面がある。だが、爆破できても破片が地球に降ってくるため被害が拡大する。実際は天体に探査機を衝突させて軌道から外すことで地球への接近をそらす。

吉川氏は「天体に探査機を衝突させても軌道は少ししか変わらない。だが、10年後に地球と衝突するとされる天体に探査機を衝突させると徐々に天体が軌道から外れ、10年後には地球に衝突しない軌道に移せる」と語る。

日本では初代「はやぶさ」や、はやぶさ2の運用で目的の小惑星までたどり着く技術を培った。探査機を天体に衝突する技術があれば軌道を変えられる。

はやぶさ2に搭載されたカメラで撮影したリュウグウ(JAXA・東大など提供)

実は、はやぶさ2の開発前のミッション検討時にプラネタリー・ディフェンスの実験も候補にあった。当時は2機体制を計画しており1機目は小惑星「リュウグウ」で観測し、2機目は別の軌道を通って後からリュウグウに向かい衝突する予定だった。だがコストが高く実現しなかった。そこで探査機の衝突実験に代わる小さな衝突装置をリュウグウに落下させ、人工クレーターを作る実験を行った。それにより、衝突実験の基礎技術の獲得とリュウグウ内部の試料採取につながった。

はやぶさ2の開発には三菱重工業やNECなどの多くの民間企業が携わっている。今後は宇宙開発だけでなく、プラネタリー・ディフェンスの研究にも民間企業の参入が期待される。(取材=飯田真美子)

日刊工業新聞2020年11月30日

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