コロナでハードル下がるデータ開示。三菱電機のFAシステム事業は“宝”に化ける?
【ニーズくみ取る】
この10年の成長をけん引してきたFAシステム事業は“宝の山”を隠し持つ。全世界の生産現場で活躍するシーケンサーやサーボモーター・アンプ、インバーターの数は膨大だ。現在の稼働台数は三菱電機の推計でシーケンサー約1700万台、サーボ約1800万台、インバーターに至っては約2300万台に上る。それがリカーリング(継続課金)ビジネス的にほぼ未活用のままで眠っている。
「コロナ禍で最終利用者のスタンスも変わってきている。今までは機械の稼働状況を外から見ることをよしとしなかった」と、FA事業担当専務の宮田芳和は潮目の変化に敏感だ。国をまたぐ移動が制限され、設備トラブルが起きても平時のように即座に駆けつけられないからだ。
サーボなどの保守・運用のリモートサービスは新たなビジネスモデルの萌芽(ほうが)となりそう。宮田は「(我々の製品を組み込んだ)機械を海外へ輸出する中小企業も多いが、自分でリモートサービスの仕組みをつくるのは大変だ」と、ニーズをくみ取る。すでに5年前から放電・レーザー加工機のリモートサービスを手がけており、そのプラットフォームを活用した一大リカーリングビジネスを目指す。
新規事業担当専務の松下聡も貴重な財産を放っておかない。産業用モーターは工場のポンプなどを回す役割だ。「直結するモーターを見れば、ポンプの状態が手に取るように分かる。モーターをセンサーとして使えるので、限りなくチャンスがある」と興奮する。
ただ、利用者もコロナ禍の緊急事態に接して社外へのデータ開示のハードルを下げつつあるとはいえ、依然ガードは堅い。三菱電機のビジネスモデル変革には単なる“ご用聞き”からもう一段レベルアップした関係構築が求められる。
【業種軸、新たに】
FA事業は1970年代後半から自動車メーカーや工作機械メーカーなどの海外展開に追随して拡大路線を突き進んできた。事業ビジョンも「お客さまのありたい姿を協創する」だ。足元は中国や台湾、韓国で半導体関連の需要が旺盛だ。
今後はさらに顧客密着度を高める業種戦略を重視する。「これまでは地域戦略と機種戦略のかけ算でやってきたが、東アジアにおいて半導体やディスプレー、電池など特定業種の投資の伸びがすごい」と宮田は業種軸を新たに意識する。
業種ごとでも技術開発で先行するトップメーカーに照準を合わせる。宮田は「特に大きい顧客はアカウント戦略をとり、今後5―10年で起こる技術革新・製造革新の商機をつかんでいく」と技術覇権争いの行方に目を凝らす。(敬称略)