私たちの日常をデータ化する「行動センシング」、スマートウォッチはどうやって計測している?
行動センシングとは、加速度センサやマイクなどから得られる情報を用いて、ユーザの日常行動を観測し、認識することを言います。スマートフォンを用いた研究が多く行われており、「歩く」「走る」「座る」「階段を上る・降りる」などの身体の動きを伴う行動を高精度で認識できるようになってきています。このような行動情報はライフログや高齢者の見守りなどに利用されます。
もっともよく用いられているのが、歩数と運動量の推定です。1日の歩数および運動量は加速度センサのデータ処理によって行われます。このようなセンシングは数Hzから100Hz程度の3軸の加速度データをもとに行います。加速度の平均値や分散値、あるいはニューラルネットワーク、KNN、SVM、NaiveBayesなどの識別木を用いて認識を行います。最近は複数の識別器を生成して多数決で識別を行うランダムフォレストがよく使われています。実験室レベルでは20種類以上の行動を98%の精度で識別できるという報告が多いのですが、実際の環境では70%以下になってしまいます。
行動の推定は加速度センサだけでもある程度可能ですが、運動量の推定では、心拍数の情報を加えるとより精度が上がります。手だけを激しく動かしている場合と全身運動している場合を比較すると、後者のほうが運動量は多くても前者のほうが大きな加速度が連続的に検出される可能性があります。心拍数は運動量とも関連して増減するので、その情報を加味することで、より正確な運動量が推定できるのです。また、睡眠の推定においても加速度と心拍数を組み合わせるケースが多いようです。ただし、レム睡眠、ノンレム睡眠の判別においては、体動の有無が関連するので、加速度センサの値が用いられる場合があります。
体温や温湿度、におい、血圧、血糖値などが取れるようになれば、より詳しい行動センシングが可能になります。これまでに数多くの研究が行われており、実生活でも少しずつ使われるようになりそうです。
(「トコトンやさしいウェアラブルの本 キーテクノロジーと活用分野がわかる!」p.88, 89より一部抜粋)
書籍紹介
スマートウォッチに代表されるようなウェアラブルは、コンピュータの小型化により実用的な製品が数多く発売され、日本では産業用途での利用が広まっている。ウェアラブルの仕組み・技術や出来ること、効果的な使い方などがこの一冊で理解できる。
書名:トコトンやさしいウェアラブルの本 キーテクノロジーと活用分野がわかる!
編著者名:塚本昌彦
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,650円
執筆者
塚本昌彦(つかもと・まさひこ)
神戸大学大学院工学研究科 教授(電気電子工学専攻)
NPOウェアラブルコンピュータ研究開発機構 理事長
NPO日本ウェアラブルデバイスユーザー会 会長
NPOウェアラブル環境情報ネット推進機構 理事
ウェアラブルコンピューティング、ユビキタスコンピューティングのシステム、インタフェース、応用などに関する研究を行っている。応用分野としては特に、エンターテインメント、健康、エコをターゲットにしている。
2001年3月よりHMDおよびウェアラブルコンピュータの装着生活を行っている。
販売サイト
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
目次(一部抜粋)
第1章 注目が高まるウェアラブル
ウェアラブルとは/PC、スマートフォンとの違い/ウェアラブルに関わる産業 など
第2章 ウェアラブルでできること
運動や睡眠の時間を管理/感情をトラッキングする/現場での作業を支援する/業務を管理する など
第3章 さまざまな形のウェアラブル
眼鏡型デバイス/腕時計型デバイス/ヒアラブル/帽子型デバイス/ウェア型デバイス など
第4章 ヘッドマウントディスプレイ(HMD)
小型HMDの仕組み/シースルーHMDの仕組み/網膜投影型HMDの仕組み/HMDの焦点深度 など
第5章 ウェアラブルを支える技術
人間を対象にしたセンサ/電気を通す糸と布/計算能力を左右するプロセッサ/AR物体の表示に欠かせないSLAM/センサからデータを収集する/情報を入力するためのインタフェース など
第6章 ウェアラブルの利用と安全
注意の転導が起こることを理解する/物理的な危険に配慮する など
第7章 ウェアラブルを活用する場面
ヘルスケア現場での利用/フィットネス・スポーツ分野での利用/工場や保守点検の現場での利用/物流現場での利用/警備現場での利用 など
第8章 ウェアラブルの新しい展開
AR、VRとウェアラブル/人工知能(AI)を利用したウェアラブル/ロボティックスとウェアラブル/身体がインターネットにつながる(IoB) など