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コロナ禍の不動産事情、ファミリー用賃貸「23区ひとり負け」の理由

新型コロナウイルスによるテレワーク(遠隔勤務)やeラーニング(通信講習)の普及で、都市部の居住需要は減退するという見方がある。識者の間でも意見が割れていたが、この1年間で少しずつ動きが出てきた。

       

「苦しんでいる企業が多い中で言いにくい面もありますが、居住用不動産の販売は絶好調です」-。大手不動産業者の幹部は、そう打ち明ける。コロナによる景気後退の中でも不動産は堅調。もちろん飲食店や百貨店、ホテルなどの商業地はダメだが、都市近郊の物流倉庫などは通販の伸長を反映して急速に値上がりした。

そして居住用不動産も、都市部を中心に好調なのだ。民間調査が主体なので引用を省略するが、首都圏の中古マンション成約価格はコロナ下でも上昇が続いている。近畿圏や中部圏も高い水準にあり、複数の調査で同じ傾向だ。

一方、地方都市は、熱海や苗場などこれまで見向きもされなかったリゾートマンションの引き合いが増えているものの、全体としては振るわない。また駅から遠い郊外マンションは値下がり傾向が顕著だという。

ではテレワークの普及は住宅に影響しないのか。「そうとも言い切れない」と不動産業者は分析する。中古マンションの場合、アベノミクス以降、一貫して右肩上がりだった近畿や中部の伸び率は鈍化している。

それ以上に変化が顕著なのが、アパートなどの賃貸物件。これまで市場をリードしてきた東京23区内の単身者向けワンルームや1Kに人気がなく、新築でも埋まりにくくなっている。

その半面で神奈川や千葉など東京周辺のファミリー向け賃貸は好調で、むしろ値上がり傾向にあるという。「居住用賃貸に関しては、23区ひとり負け」という分析すらある。

考えてみれば当然かもしれない。テレワークで通勤・通学の負担が軽減されたとしても、都市部の生活の利便性は手放したくない。そのため住居費が割安な郊外へ緩やかなシフトが動き出した。

一方、コストのかかる単身赴任は、できればテレワークに置き換えたい。あるいは新入社員や新入学の学生も、実家にいたまま新生活をスタートできれば経済的に大いに助かる。それで単身者向け賃貸の需要が低下しているという仮説が成り立つ。テレワークはどうやら、地方移住を一気に加速するものではなさそうだ。

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