日立が世界規模で導入を狙う生体認証サービス、情報漏えい防ぐ技術で引き合い絶えず
パスワードやICカードに依存せず買い物や本人確認ができる技術が着実に進化している。日立製作所は、測定変動が大きい指静脈などの生体情報でも確実に登録・照合できる独自の「公開型生体認証基盤(PBI)」を核とした生体認証統合基盤サービスを提供している。
PBIは、秘密鍵を持つICカードなどの端末だけが公開鍵を開けて本人認証できるPKI(公開鍵認証基盤)をベースにした。PBIは生体情報を秘密鍵に用いるため、テクノロジーイノベーション統括本部の高橋健太主管研究員は「万一、情報漏えいするとリスクが極めて大きいのが課題だった」と話す。そこで日立では元の情報に復元が困難な関数を利用し、変換処理を施した状態で情報を管理する技術を開発。生体情報そのものをサーバーに保管することなく、安全に運用できるようにした。
2010年にはPBIで特許を取得。14年にはPBIを銀行端末に実装した。金融イノベーション本部の池田憲人担当部長は「利便性・安全性の高いPBIを、金融機関だけでなく社会全体の仕組みに活用できないか考えた」とサービス誕生の背景を振り返る。
18年にはイノベーションチームを結成し、PBIを活用したサービスの検討や実証実験を実施。20年10月に提供を始めた。同部の真弓武行技師は「コロナ禍でのキャッシュレス需要の高まりも受け、業種業界問わず(販売開始から1月中旬まで)約30件の引き合いがある」と話す。
店舗でのキャッシュレス決済やログイン管理はもちろん、同サービスを利用した人物のデータも活用できる。小売り店舗のデータから売れ筋商品を把握できれば、商品開発に役立てることができる。データ活用サービスは今後5年間で提供していきたい考えだ。
目指すは「ニューノーマル(新常態)の社会インフラ」(池田担当部長)。ビジネスや旅行など多くの場面で活用できるよう、世界規模でのサービス確立を狙う。(狐塚真子)
【製品プロフィル】生体認証技術に決済連携、入退場管理などのクラウド処理機能を付加したサービス。生体情報などの必要な情報を1回登録するだけで、対応施設で手ぶらでの決済や本人確認が可能になる。サービスはウェブアプリ形式で、指静脈認証装置とタブレットだけで利用できるため、低コストかつ短期間でサービスが導入できる。