ニュースイッチ

椿本チエインが提案する充放電装置、「EV+非常用電源」で普及なるか

椿本チエインが提案する充放電装置、「EV+非常用電源」で普及なるか

日産のEV「リーフ」にケーブルをつないだV2X対応充放電装置「eLINK」(椿本チエイン提供)

EV電力、非常時に供給

椿本チエインはV2X(ビークル・ツー・エックス)対応の充放電装置「eLINK(イーリンク)」を自治体やマンションなどに提案している。電気自動車(EV)を充電するだけでなく、EVを施設の非常用電源としても利用できる。一方で、EVの普及が進まないと本格展開が難しいというジレンマも抱える。災害時に機動的に活用するためには、平常時でも利用しやすい仕組みづくりが重要となる。

【急場をしのぐ】

イーリンクの納入実績は累計100台超。2012年に前身となる装置を神奈川県横須賀市に納入した。市庁舎の北下浦行政センターでは13年に停電が発生。その際にイーリンクで庁舎へ電力を供給した。それまで同センターでは防災無線向けに最低限の非常用電源しかなかった。イーリンクで照明やパソコンを動かすことができ、急場をしのげた。

ディーゼル発電式の非常用電源は、軽油の交換などメンテナンス面で負担が大きい。また、定置型蓄電池では大容量タイプを設置する場合は消防法の規制を受けるため、煩雑な手続きが必要だ。EVから放電できるイーリンクがあれば、こうした課題をクリアできる。園田勝敏PCSビジネス部長代理は「大容量を準備する場合、定置型蓄電池よりEVを使った方が低コストだ」と語る。

防災向けの用途も想定している「eLINK」の操作パネル(椿本チエイン提供)

イーリンクはマテハン事業における非接触給電などのパワーエレクトロニクス技術を基に開発された。同社の主力事業である産業用チェーンや自動車用部品からみれば、少し異色の事業だ。それでも同事業に参入したのは、自動車用部品の主要顧客である日産自動車との関係が大きい。日産のEV「リーフ」販売を後押しするには、充放電装置をセット展開することが求められたからだ。

【提案の幅広げる】

だが、国内のEV市場は当初の予定通りには広がっていない。だからこそ防災用途としていかに訴求するかが不可欠となる。とはいえ、いつ起こるか分からない災害のためだけでは企業の設備投資を進めることはできない。そこで強化しているのが仮想発電所(VPP)向けの展開だ。

18年に豊田通商と中部電力が共同で進めるV2G(ビークル・ツー・グリッド)アグリゲーター事業の実証に、イーリンクが採用された。電力の需給調整にあたり、EVと電力系統との間で電気を橋渡しする役割を担う。VPP向けで存在感を高めれば、提案の幅は大きく広がる。

椿本チエインは京田辺工場(京都府京田辺市)や埼玉工場(埼玉県飯能市)などの自社拠点にもイーリンクを導入。21年度中には長岡京工場(京都府長岡京市)も導入予定だ。また、地域への貢献活動の一環として、京田辺市や長岡京市にイーリンクを寄贈。大原靖社長は「まだ実績は少ないが、災害大国・日本では活用が期待できる」と熱を込める。

平常時から活用しておけば、災害時にも機動的に対応しやすい。使い勝手の改善を進めて、より柔軟な提案活動につなげる考えだ。(大阪・園尾雅之)

日刊工業新聞2021年2月1日

編集部のおすすめ