正念場の水道事業、持続可能へ企業が出来ること
自治体の水道事業が正念場を迎えようとしている。人口減少によって料金収入が落ち込み、全国の水道事業者の1割が赤字に陥っている。今後、老朽化した水道管の更新にも費用がかかるため、苦境の色合いが濃くなる。危機感を募らせたメタウォーターの中村靖社長は「業界からも解決策を発信すべきだ」と語る。中村社長に水インフラを持続可能にするために企業ができる貢献について聞いた。
―水インフラの継続に必要なことは。
「水インフラの能力を維持する方法を社会全体として考えることだ。重要なことでありながら、未来を考える機会も失われている。水道事業者の職員は、日々の業務をこなすだけでも大変であり将来を考える余裕がない。志を持った人間を育てる時間も必要だ」
―志を持った人を育てるには。
「人材こそ、水インフラに携わる民間企業の協力分野と思っている。町の職員は、自分の町での仕事がメーンだ。企業なら他の都市にも海外にも活躍の場があり、多くのことに挑戦できる。私たちのところで育てた人がいずれ、地域の水インフラを担ってもいい。同業者にも人材面を考えてほしい」
―水インフラを持続可能にするためのメタウォーターの提案は。
「小規模設備をリース方式で提供する事業を始めた。水道事業者は水需要の変動に応じて浄水場の規模を見直せる。大都市で使用後、移動して小規模な都市で再活用することもでき、全体の効率化につながる。また、現場中心で作業の優先順を考える管理手法『WOODAP』も提唱している。人も予算も限られる中でも最適な設備投資を導き出せる」
―クラウド上での運転データ管理も2011年から提唱しています。
「1カ所の情報しかないと効率が良いのか、悪いのか判断できない。広域の水処理施設からデータが集まると、比較可能になって既存設備を最大限活用する方法が分かってくる。データは大きくなるほど価値が上がる。いま、データを有効活用しようとする機運が芽生えている」
―水インフラの改革を阻むものは。
「時間がなくなることだ。アディショナルタイム(猶予時間)に入ると、全体を見る余裕がなくなる。今のうちに業界として解決策を発信し、市民から選んでもらえるようにしたい。(企業による水道事業への参画範囲が広がる)水道法改正によって“企業対市民”の対立構図が作られた。本当に大事なのは水インフラの未来を議論すること。民間の参入がすべてを解決するとは思っていないが、選択肢の一つになる」
【記者の目/企業の積極的な貢献期待】
エネルギーに比べると水インフラの将来を議論する場が少ないと感じる。そもそも水道事業の経営に関心を持つ市民が少ないのでは。中村靖社長が提唱するように企業からも発信が必要だろう。企業として水環境の保全は当然のこと。次は、持続可能な水インフラづくりに役割を果たす番であり、企業の積極的な貢献が期待される。(編集委員・松木喬)