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政府が企業に「人権侵害リスク調査」促す。海外は既に法制化段階へ

「人権DD」海外で義務化の動き・日系の認識不足に懸念

政府は企業に人権を尊重した事業活動を求める「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定した。コロナ禍もあって注目度は高くなかったが、人権侵害のリスク調査を促すなど、企業に現状以上の対策を求めた。海外では日本以上に厳格な対応を企業に迫っている。「社内に人権問題はない」と安心している日本企業も、行動計画や海外を参考に対策の点検が必要だ。

行動計画は政府の政策に一貫性を求めるとともに企業への要望をまとめた。長時間労働やハラスメント(嫌がらせ)といった職場での問題の是正、インターネットやAI(人工知能)など新技術によるプライバシー侵害への対応を求めた。さらに公共調達での人権保護ルールの徹底、取引条件・慣行の改善などの具体策も示した。また政府から企業への要望として人権デューディリジェンス(DD)導入に期待すると明記された。この人権DDがポイントとなる。

行動計画は国別行動計画(NAP)と呼ばれるように、各国が策定することになっている。日本政府は2016年に策定を決定し、19年から関係府省や経済界、労働組合などの代表者が集まって検討してきた。

計画づくりの指針としたのが、国連が11年に採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」だ。経団連のCSR推進業務に携わる損保ジャパンの関正雄シニア・アドバイザーは「指導原則は精神論ではなく、マネジメントを求めている」と指摘する。「人権が大事」と語るだけでなく、人権を保護する経営の仕組みが問われている。

その仕組みが人権DDだ。投資先のリスクを精査する金融のDDと同様、人権侵害の兆候を洗い出す作業を指す。海外では人権DDを実施してリスクを特定し、対策を開示する企業が評価される。投資家も人権問題が発覚して株価が急落するリスクが低いと判断できる。日本では「問題ゼロ」の結果が評価されがちだが、海外では対策が重視される。

日本の行動計画で人権DDの導入は「期待」にとどまったが、欧州は法制化に向かっている。英国は15年に制定した「現代奴隷法」によって海外の取引先も含めた人権DDを要請した。取引先の工場における低賃金労働や児童労働にも大企業に責任が及ぶと考えるからだ。続いてフランスが17年にDDを義務化し、ドイツも法制化を検討する。国民の関心も高く、選挙の争点となる国もある。

一方、日本では人権DDが話題となる機会は少ない。経団連が20年10月に実施した会員アンケートによると人権DDの実施は3割にとどまった。中小企業も含めた人権問題全般への認識不足を政府も認識しており、行動計画には「中小企業への情報提供・セミナーの実施」と対策が記載された。

また、行動計画は目的を「日本企業の国際的競争力と持続可能性の確保・向上」と定めた。関氏も「人権が経済問題として語れるようになり、市場経済にビルトインされた」と表現するように、人権を経営やビジネスと同軸に捉え直すタイミングにきた。

日刊工業新聞2020年1月22日

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