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「バイデン政権」日本企業にビジネスチャンス?専門家の見方

「バイデン政権」日本企業にビジネスチャンス?専門家の見方

バイデン公式ツイッターより

ジョー・バイデン氏が20日(米国現地時間)、第46代米大統領に就任する。「ビルド・バック・ベター(より良き再建を)」のスローガンを掲げる新政権の船出は、新型コロナウイルス感染症対策と国内経済再建の両立にかかっている。加えて、新政権が進める環境・エネルギー政策や人権問題への対応は産業界にも大きく影響を与えそうだ。日本企業は情勢を注視しつつ冷静な対応が求められる。

コロナ対策 100日内にワクチン1億回分

「より速やかに、より多くの人がワクチンを摂取すれば、パンデミック(世界的大流行)をすぐに収束できる」。バイデン氏は14日(米国現地時間)、新型コロナ対策に関する演説の中でこう述べた。米ジョンズ・ホプキンス大学によれば、19日時点の米国のコロナ感染者数は約2400万人。累計約40万人が死亡した。感染拡大に歯止めがかからない中、対策を講じる。

バイデン氏は公約で就任後100日以内に国民へワクチンを1億回分投与するとの計画を掲げる。14日には家計を支援する現金給付の上乗せなどで、1兆9000億ドル(約200兆円)の追加経済対策案を発表し、感染対策と経済再建を進めている。

目下、感染抑制の手段として期待されるワクチンだが、供給体制に課題が残る。すでに投与が始まっている米ファイザーのワクチンは低温での輸送・管理が必要で、供給網の迅速な整備が求められる。

上智大学の前嶋和弘教授は「国防長官に指名されたロイド・オースティン氏はロジスティクス分野に強いと定評がある。ワクチンの供給網構築に経験を発揮するのではないか」と予測する。

環境・エネ 規制強化、日本企業にチャンス

バイデン氏は大統領就任初日に温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への復帰を表明し、2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにすると表明している。環境・エネルギー政策は経済政策の一翼を担う。

気候変動問題を国際的な重要課題と位置付け、再生可能エネルギー振興への投資やインフラ整備、電気自動車(EV)普及などに今後10年間で1兆7000億ドル(約178兆円)を投じる公約を掲げる。同時に雇用創出による経済立て直しも狙う。

環境規制は欧州が先行するが、世界経済の“成長エンジン”である米国が規制強化にかじを切ることでエネルギー産業の情勢が大きく変わりそうだ。この状況を「製造業にとってもビジネスチャンス」と前嶋教授は説明する。「例えば、米国各州にクリーンエネルギーを供給するインフラシステムを日本企業が提供することが可能だろう」と指摘する。

バイデン政権では電気自動車普及を推進(画像はイメージ)

米中関係 変わらぬ対立、中国事業の分水嶺

トランプ政権の下で対立が鮮明となった米中関係だが、バイデン政権でも直ちに関係改善に向かうことはなさそうだ。「米国は中国への厳しい姿勢を変えないだろう」とキヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦研究主幹は指摘する。日米同盟や豪州、インドなど同盟国との関係を通じ対中交渉に臨むと予測する。

バイデン政権は専門家主導の外交に回帰するとみられる。気候変動や人権問題など国際課題への関心から「新疆ウイグル自治区の問題や香港の民主化運動への対応で、中国に行いを改めるよう求めるのではないか」(前嶋教授)。

トランプ政権が課した中国への高関税を「徐々に見直していく可能性がある」と前嶋教授は説明する。ただし見通しは不透明だ。事業環境の変化も含め、日本企業は米中の動向を注視しつつ、中国でこれまで通り事業を続けていくか判断する必要があるという。

米国が従来の外交手法に戻ることは中国にとって「交渉方針が見えやすくなる側面がある」(前嶋教授)。一方、世界における米国の経済力や軍事力が低下し、中国が交渉の主導権を握ることも想定できると予測する。

インタビュー/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏 伝統的な政権スタイルに

バイデン政権が始動する。元外交官で日米安全保障条約課長や在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを務めた、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏に新政権の展望を聞いた。

―バイデン新政権をどう見ていますか。

「ワシントンのエリートが主導する伝統的な政権運営が戻ってくる。閣僚の顔ぶれを見てもバイデン政権は“オバマなき第3期オバマ政権”と言ってよいのではないか。まず就任後100日間でトランプ政権がやってきたことをひっくり返そうとするだろう。パリ協定復帰などが例だ」

―どのような政策が展開されそうですか。

「トランプ政権との差別化を図るという意味でも新型コロナ対策は必須だ。同時に経済再建にも動く。ただし、政権が市場と対話できることが重要だ。バイデン氏は公約で大企業や富裕層への増税を掲げたが、実現は難しいかもしれない。規制強化を推進する立場の民主党は産業界から反発を招く可能性があるからだ。産業界よりも民主党の支持基盤である労働者や中産階級、貧困層の方を向いた政策を展開するだろう」

―米中関係をはじめ、外交姿勢にも変化がありそうです。

「中国への制裁関税はおそらく見直さない。米中対立はある種の“けんか”であり、いったん振り上げた拳を下ろすと間違ったメッセージを中国に伝えかねない。同様の理由でイラン、北朝鮮などへの厳しい姿勢も崩さないだろう。専門家主導の洗練された外交に戻るだろうが、劇的な変化があるとは考えにくい」

「イラン核合意への復帰は難しいだろう。環太平洋連携協定(TPP)にも労働者保護の観点から簡単には戻れない」

―国際情勢の変化に日本の企業経営者はどう対応しなければならないでしょうか。

「米国が新政権に変わっても、米中の覇権争いは今後5―10年かそれ以上続くだろう。このような地政学的な対立において経済的合理性は意味をなさない。『新冷戦』とも言われる昨今の国際情勢はある意味、有事や混乱期に近い状況だ。経営者は経済的合理性の観点とは別に戦略的にものを見る必要がある」

「例えば情報通信分野を考えてほしい。米国と中国で通信網が分かれ、デジタル分野で経済のブロック化が始まる。中国側につくのか、米国側につくのか。どちらをとるかは地政学的な合理性、すなわち戦略に基づく判断に委ねられる」

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏
日刊工業新聞2021年1月20日

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