相次ぐネット上での誹謗中傷、中小企業も狙われる!
経営・社員への悪影響拡大
インターネットが社会に広く浸透し、誰もが世界中に情報を発信でき便利な半面、特定の個人や企業への誹謗(ひぼう)中傷が後を絶たない。会社経営や社員への心理的苦痛といった悪影響も引き起こす。中小企業も例外ではなく、対応策に知恵を絞る。
「恥ずかしかった…」。新幹線の車体部品を製造するアコオ機工(兵庫県赤穂市)の間鍋雄樹社長は2年前の出来事を振り返る。発端は約4年前。当時専務だった間鍋社長はインターネットで会社名を検索ワードに入れた際、後に続く連想ワードとして「バカ社長」が表示された。思い当たる節はなく対策しなかった。
2年後、経営トップに就いた間鍋社長が採用内定者の自宅を訪れた時、内定者の親から連想ワードの件を指摘され、子どもを働かせることへの不安を打ち明けられた。間鍋社長の中に「自分だけなら仕方ないが、バカ社長のイメージが会社全体になると社員に申し訳がない」との気持ちが湧き上がった。
ネット専門業者に削除を問い合わせたが、費用は100万円台と高額。担当者からは「100%消えるわけではない」と言われて断念した。だが2020年、先輩経営者の「サイト運営会社に言うと消してくれる」という助言をもとに削除申請した結果「連想ワードは1週間程度で消えた」(間鍋社長)という。なぜ誹謗中傷されたのか分からないが「取引先や外部への礼儀をこれまで以上に心がけるよう社員全員で改める契機になった」(同)と話す。
発電所向けプラントのメンテナンスを手がける中野プランツ(兵庫県高砂市)は、18年に発覚した関西電力金品受領問題で中傷被害にあった。
当時、高砂市の原発メンテナンス会社が福井県高浜町の元助役とつながりがあるとの一部報道があった。記事に社名は記されていなかったが自社と勘違いされては困ると、報道後すぐ会社ホームページ(HP)に「一切関係はございません」と掲載した。元助役と面識は全くなく、指摘の会社は別だった。
第三者が会社を調べる際、まずHPを見るだろうと考えた。だが、事態は悪化する。報道を見た第三者が、原発メンテナンス会社は中野プランツだとネット上にあげたのだ。
“見えない相手”メディアで反論
「困っているんや」。中野哲郎社長は知り合いが働く地元新聞社に助けを求めた。その時話した内容が記事として後日掲載され、反響を得た。「HPを見ていない人に伝える手段は新聞だった」(中野社長)と明かす。
中野社長は地元商工会議所の主要メンバーだが「『当初90%の確率で御社だと思った』との周囲の声を耳にした」という。メディアを使った策は功を奏した。社員や人脈を生かして危機を乗り越えられたことを実感し、日頃の人付き合いや自身の人間性を高める大切さを痛感したという。
法務省の資料によるとネット上の人権侵害情報に関する人権侵犯事件は、19年度が1985件。17年度の過去最高件数(2217件)に次ぐ過去2番目に多い件数で、直近5年間は年1500件以上と高止まり傾向だ。明日は我が身と考え、中小企業も対策を講じる必要がある。