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今回も一時的なブームで終わる?ヴィーガン食や大豆ミートが定着するには

“おいしい”は罪ですか? #4 罪悪感の先に
今回も一時的なブームで終わる?ヴィーガン食や大豆ミートが定着するには

 

健康であること、健康を守ることが強く求められてきたコロナ禍。食生活もその影響を受けて、健康を意識したムーブメントが起き、ヴィーガン食やギルトフリーなどに注目が集まった。ただしこういった“健康ブーム”は数年おきに繰り返し、一般的な定着までは至っていない。一方、健康意識の急激な加速からか「おいしい食事に罪悪感を覚える」という声すら聞かれた。無理なく継続し、定着させるためのヒントを探った。(取材・昆梓紗)

全員が同じテーブルを囲める

「20年前は『痩せたい』『きれいになりたい』といったニーズを持つ女性客がほとんどだったが、近年では男性や、親子連れなど幅広い客層になってきた」。ヴィーガン食の先駆けともいえる青山のカフェ「エイタブリッシュ」(東京都港区)の川村明子社長は変化を実感する。同社が取り上げられる媒体も、女性誌中心から、ライフスタイル誌へと広がりを見せている。

エイタブリッシュの川村明子社長
 ヴィーガン食をより身近なものにするため、それまでの食事中心のカフェから菓子に力を入れる方向性に転換し、2020年4月に松屋銀座にテークアウト専門のポップアップストアを初出店。同8月に常設店としてオープンした。「イートイン方式よりもテークアウトの方がより多くの人にヴィーガン食を届けられるという考えがあった。また、菓子であれば子どもからお年寄りまで親しめる」(川村社長)。
松屋銀座の店舗
 百貨店では同じフロアに有名菓子店が軒を連ねる。その中でより多くの人に選ばれる商品になるには、「おしゃれで目に留まる見た目と、おいしさ。その上で、体にもいいというおまけがつく」(川村代表)ことが必要だと強調する。ヴィーガンだから選ばれるのではなく、良いなと思った商品がたまたまヴィーガンだった、という状態にならなければ、定着や継続的な購入にはつながらない。

川村社長はもともとデザイナーということもあり、ケーキのデコレーション、パッケージ、宣伝ツールなど全てのデザインを統括。動物性の素材や精製された白砂糖などを使用せず、限られた材料でおいしいものを作る、というヴィーガン食にも、シンプルな素材で優れた表現を作るデザイン思考を応用している。厳しい節制があるイメージの強いヴィーガンだが、それをポジティブに捉えて「これだけの材料でこんなにおいしいんだ!」という驚きを感じてほしいという。

松屋銀座でも人気のクッキー
 また、ヴィーガン食はアレルギーや宗教的理由で一般的な食事が難しい人も、もちろんそうではない人も、同じ料理を食べられる。「より多くの人が同じテーブルを囲んで楽しく食事ができることがヴィーガン食の大きな魅力」と川村社長は笑顔を見せる。

「ギルトフリー」をやめた理由

ヴィーガン食と関連し、「ギルトフリー」の考え方や商品も注目されている。おもに「罪悪感なく食べられる」食材や食品を指す。ここ数年はヴィーガン食、大豆ミートなどの植物性代替肉や、カロリーが低い、添加物を使用しないといったお菓子などのPR文言にも使用されている。
 しかし、そんなブームに逆行するように、早い時期からプロモーションに「ギルトフリー」を使用していたにもかかわらず、使用を取りやめたサービスがある。

おやつのサブスクリプション(サブスク)「snaq.me(スナックミー)」を展開するスナックミー(東京都中央区)。16年に海外でギルトフリーの考え方を知り、日本で「guilt free」の商標を取得。「当社が提供しているおやつは人工甘味料や着色料不使用。体にとって気になる成分が入っていない、食べても嫌な気持ちにならないという意味合いからプロモーションに使用することにしました」と服部慎太郎CEOは振り返る。

スナックミーの服部慎太郎CEO
 その後、他社でもダイエット食品などでギルトフリーを謳った商品を出しはじめた。ギルトフリーの定義があいまいになり、「食に対する罪悪感は一人ひとり異なる。押し付けるようなことが起きてはならない」と考える同社との乖離が生じていった。18年頃にはギルトフリーをプロモーションに使用することをやめた。

スナックミーのおやつの定期便

ギルトフリーを使用していた頃は健康意識の高い人が多かったが、18年以降はよりカジュアルに健康に気を使うような人へと、ユーザー層の幅が広がった。 また、ギルトフリーを使わなくなった理由には、サービス内容がギルトフリーから、「楽しさ」や「わくわくする体験」にシフトしたこともある。引き続き人工甘味料・着色料不使用などは続けているが、楽しさを軸に、デザインにこだわり、パーソナライズや商品のバリエーションを増やし体験価値を高めるなど、サービスをブラッシュアップしている。コロナ禍で「外食の代わりに家で特別なおやつを楽しみたいという」ニーズが高まり、ユーザー数が前年比で倍増。20年11月からはおつまみのサブスクも開始した。

また、「楽しさ」だけでなく、環境や社会課題の解決に向けた取り組みもサービスに込めている。サブスクでは必要な数だけ食品を生産、販売することができ、フードロス削減につながる。また、コロナ禍で売り上げが下がってしまったメーカーに声掛けして材料を仕入れる活動なども行う。「商品そのものだけでなく、ストーリーに共感し、いいものを支援したいというユーザーも多いと感じています」(服部CEO)。

前述のエイタブリッシュでも、社会課題解決に向けた取り組みを積極的に行っている。川村社長が共同設立者となっているドッツウィル(東京都港区)とともに、アレルギーやヴィーガンの人でも食べられるような防災備蓄クッキーを開発。同社を通じ、売り上げの3%がNGOジャパンハートに寄付される。川村社長は「食が自然と社会貢献につながる取組みを積極的に行っていきたい」と意気込む。

長期保存が可能なヴィーガンクッキー

無理なく楽しくがトレンド

エイタブリッシュ、スナックミーともに、ヴィーガン食や健康志向はサービスの根底にあるが、それを超えて評価される取組みに勝負をかけ、デザイン性や味、体験価値などを磨いている。
 コロナ禍により高まった健康志向もあり、ヴィーガン食やギルトフリーへの注目は集まった。しかし日本の食トレンドを振り返るといくつもの食品が一時のブームで消えていった。「健康な食事でないと罪悪感がある」というネガティブな動機や、節制や抑圧からそれらを選択していては、ヴィーガン食やギルトフリーを取り入れる人の幅は広がらず、継続は難しいだろう。

ポジティブな兆しはある。クックパッドが発表した「食トレンド大賞2020」。20年のトレンドを「おうち時間を楽しむため『料理がアクティビティ化』した」と分析した。さらに21年のトレンド予測には、大豆ミートが選ばれた。
 同様に、料理写真共有アプリ「SnapDish」 (スナップディッシュ) を運営するヴァズ (東京都武蔵野市)が発表した20年の「フォトジェニックトレンド大賞」に選ばれたのはヴィーガン食で関連する投稿は前年比170%に増加した。同社は「持続可能な食生活を、より美味しくより楽しもうとする動きが家庭の食卓でも始まっている」とユーザー投稿を分析している。

普段の食事に無理ない範囲で取り入れるような動きが出始めている。企業側が罪悪感や社会課題解決を強く煽る必要はない。先行する消費者の「楽しみたい」という姿勢や、社会とのつながりをゆるく意識しながら食を選択する空気感をうまくキャッチし、商品やサービスを展開していく必要がある。

ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「食べることを積極的に楽しむ」より、「生きるために食べる」という人の方が、もしかしたら多いかもしれません。そういった層に響くのが「罪悪感」や「健康志向」の軸なのではと思っています。楽しむ派、健康派、どちらにも受け入れられているからこそ、糖質ゼロや大豆ミートは伸びているのかもしれません。(ちなみに私は楽しむ派です!)

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