今年の産業用ロボット市場はどうなる?「V字」は無理でも自動車・半導体で堅調か
<自動化需要> 取り込みカギ
笑門来福。産業用ロボットにとって2021年は回復・成長のための好材料がそろう。足元では自動車向けが回復基調にあるほか、半導体製造装置やIT関連を含めた一般産業機械向けが堅調を維持している。「V字」とはいかないまでも順調な回復が見込める。全業界で加速する自動化需要をいかに取り込むかも重要なポイントになる。各社の取り組み一つひとつが混迷する世界の産業に灯をともすことになりそうだ。(川口拓洋)
<21年予測、受注4%>増継続的生産支える
日本ロボット工業会は21年のロボットの年間受注額(非会員を含む)が、前年比4・0%増の8840億円になるとの見通しをまとめた。20年の受注額は同4・7%増の8500億円の着地を予想する。小笠原浩会長(安川電機社長)も「全体でみるとロボットは回復している」と期待感を示す。
20年は19年に続き産業用ロボットにとって苦難の年だった。19年は米中貿易摩擦による設備投資の様子見の影響を大きく受け受注は減少。20年初頭は米中摩擦は常態化したものとの認識が広がる中で設備投資の機運が高まってきたが、突如発生した新型コロナウイルス感染症が業界全体だけでなく世界経済に冷や水を浴びせた。
人の移動が制限されたことでロボットを製造しても製造現場に設置できないという状況が発生した。また、自動車や自動車部品向けなど大口顧客の生産計画も後ろ倒しになった。
ただ、ロボット各社の業績は20年夏、秋頃から順調に回復している。製造業をはじめ各産業では、人件費高騰や人手不足などの構造的な問題だけでなく、新型コロナにより継続的な生産体制の構築は明白な“目の前に迫る課題”になっている。この需要にロボット業界が対応しており、小笠原会長も「19年から20年でさらに落ちるとも思ったが実際は落ちていない」と総評する。
20年年末から新型コロナの変異種が報告されており、コロナ禍による世界の経済や産業への影響や不安は消えていない。一方で21年は、設備投資の回復期や拡大局面でもあり、ロボットの成長性を期待する声は多い。成長を押し上げる一つの要因はロボットの利活用推進であり、市場の拡大だ。
<適用分野拡大>増産に備え
ファナックの山口賢治社長は「ロボットの適用分野はどんどん広がっている。(自動車以外を)一般産業とは呼んでいるが、物流から三品(食品・化粧品・医薬品)業界まで、ロボットが多分野で使われている」と明らかにする。川崎重工業も市場拡大に力を入れており、PCR検査を複数の産業用ロボットで高速化・自動化する「PCR検査ロボットシステム」などを開発中。21年初頭にも提供を開始する。
ロボットの中核部品や周辺機器を手がけるメーカーでも、拡大するロボット化の需要の高まりを期待する。空気圧機器で高いシェアを誇るSMCはデンマークのユニバーサルロボット(UR)や安川電機、オムロン、三菱電機の協働ロボット向けチャックやロボットハンドを相次いで市場投入している。
高田芳樹副社長は「産業用ロボット向けにも展開していたが、ロボットメーカーが保全や構築の人材がいなくても自動化できる協働ロボットを強化している。この流れについていく」と強調する。中核部品の一つである減速機を提供する住友重機械工業の下村真司社長は「自動化・省力化ニーズの高まりでロボットや無人搬送車(AGV)向け小型減速機の需要は高まる。生産体制は整っている。いつでも対応できる」との認識を語る。
21年も新型コロナの影響は日々刻々と変わり、予断を許さない状況は続く。ただ、底堅い自動化需要に対応するためロボット関連各社が動きだしていることは事実。業界の動きが活発化する1年になりそうだ。
<私はこう見る>
EV工場で受注ケースも 野村証券エクイティ・リサーチ部長 斎藤克史氏
21年の機械受注は回復に向かうと予想される。ただし、年前半は新型コロナ感染が再拡大し、回復が緩やかになる可能性がある。一方、半導体投資関連や中国の需要は20年後半からの勢いが21年前半は続きやすい。工作機械・軸受関連の機械需要は顧客業種で自動車向け、製品ではロボットや、産業機械によってけん引される。需要成長率の点ではロボットが循環しながら成長し、工作機械は需要が循環している。この需要は18年前半にピークアウトし、同年央以降に大きく減少した。北米、欧州は19年10―12月期に落ち着きが見られたが、20年4―5月にはロックダウン(都市封鎖)の影響で大きく減少し、その後は10月まで少しずつ回復してきた。日本の需要は9月まで停滞していたが、10月に改善の兆しが表れた。21年は各地域とも需要の減少局面で抑えられていた更新投資の増加で回復が続くだろう。新潮流として高まる電気自動車(EV)の工場投資で、ロボットメーカーが受注するケースも出始めた。(談)
潜在ニーズ掘り起こしを 三菱UFJモルガン・スタンレー証券アナリスト 佐々木翼氏
もともと古くなった機械が増える中、人手不足も顕在化しており自動化しなければならないニーズが増えていた。ただ、過去3年間は米中貿易摩擦や新型コロナ感染症の影響により投資は抑えられていた。
新型コロナを経て、自動化しなければならないことは現実的な課題であり、より一層明白になった。21年はワクチンの普及も進み、世界経済が正常化する過程にあって設備投資が回復しやすい環境になるだろう。実際、中国や米国、欧州をはじめとしたさまざまな国でも自動車やエレクトロニクス、一般産業などの業種でも回復傾向にある。
古い機械が増え自動化しなければならないニーズが潜在的に強くなっている中で、機械を手がけるメーカー各社は3年間でいろいろな自動化ソリューションを生み出してきた。ファナックでは人協働ロボットであり、工作機械メーカーでは自動化したソリューションがある。各社には顧客の潜在需要を掘り起こすことができるかが問われる年になる。(談)