大人気「and3あんみつ」を生み出した福島の製餡会社、「あのころに戻りたくない」が原動力
東日本大震災から3月で10年。業務用餡(あん)製造で東北最大の郡山製餡は震災後の風評被害に苦しんだ1社だ。1974年に創業し、震災のみならず、和菓子市場の縮小など幾度も訪れた危機を乗り越えてきた。令和の時代に中小企業が生き残る秘訣(ひけつ)を聞く。(栗下直也)
ー食品を取り扱うだけに震災の影響も大きかったのでは。「当社は卸が中心。福島産のお菓子が売れなくなれば、私たちの仕事はなくなる。納入先は福島が中心だから、本当に仕事がなくなった。『あのころに戻りたくない』というのが今の原動力だ」
ー先が見えない不安をどう克服しましたか。「自分たちの力ではどうしようもないこともある。できることをしようと切り替えた。仕事ばかりの生活だったから、会計の勉強など時間を有効に使った。復興支援や全国の応援もあり、回復軌道に乗せることができた」
「震災でどん底を経験したから、コロナ禍でも、悲観的にはならなかった。最悪の状態を常に想定できていれば、それ以上、悲惨にならない。ネガティブにならずポジティブに考えられる。いろいろ対策も打てる」
―その対策の一つが小売りの菓子部門の強化ですね。「インスタ映えスイーツ」として、3年前に市場投入したあんみつ「and3」が売れています。「夏にあんこの消費量が落ち込む対策として、あんみつは40年以上前から扱っていた。ただ、菓子部門は『and3』開発当時、売り上げが減っていた。てこ入れしようと、高校の同級生のデザイナーに相談したのがきっかけだ」
「あんみつの味はほとんど変えていない。フルーツの彩りや切り方を変えるなど微修正はしたが、大きく変えたのはパッケージ。見せ方で、こんなに変わるのかと驚いた。生産が間に合わない状態が続き、菓子部門の業績は業務用の売り上げに迫っているが、あくまでも本業は卸だ。浮足立たず、丁寧なモノづくりを心がけたい」
―市場が縮小傾向にあり、廃業する同業者も少なくありません。「市場縮小や後継者不在などで同業者が店を畳むと困るのは和菓子屋さんだ。生き残ったことで、仕事が集まってきた面はある。奇抜なことをせずに、丁寧な仕事を心がけている。試作品が欲しいといわれれば、すぐに製作し、お客さまに届けるよう心掛ける。基本に忠実なことが付加価値を高める近道だ」(取材はオンラインで実施)
98年(平10)福島大経済卒、同年イワノヤ入社。00年郡山製餡入社、2018年社長。福島県出身、45歳。