「コロナ」だけじゃない!2020年産業界10大ニュースを解説
子だくさんの「子」の年は繁栄とのジンクスがあるが、見事に裏切られた。2020年は新型コロナウイルス一色の1年で、ウイルスの猛威で多数の感染者と死者を出した。3密回避へ日々の生活は制約され、経済も大打撃を受けた。コロナ収束を見通せないまま越年する。明るい材料は第5世代通信(5G)サービスの開始や、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで採ったサンプルの帰還など。ビジネスの可能性が広がり、日本の高度な科学技術力も世界に示せた。
※「新冠肺炎」は中国語で新型コロナ感染症
【第1位】パンデミック
2019年12月上旬に中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症が世界を襲った。世界保健機関(WHO)は3月、パンデミック(世界的大流行)に陥っていると表明。感染者は世界で7800万人超、死者は172万人超に及び、なおも感染拡大が続く。米英仏首脳らも感染。
日本政府は3月に東京五輪・パラリンピックの1年延期を決定、翌4月には7都府県に緊急事態宣言を発令した。欧米などでワクチン接種が始まるも、収束を見通せない。
【第2位】世界経済マイナス成長
コロナ禍が世界経済に大打撃を与えた。各国・地域で相次ぐ渡航制限、ロックダウン(都市封鎖)が人の移動を制限し、需要と雇用を“蒸発”させた。国際通貨基金(IMF)が10月にまとめた予測によると、2020年の全世界の実質成長率はマイナス4・4%と凍りつく。米国はマイナス4・3%、ユーロ圏マイナス8・3%、日本はマイナス5・3%に沈む。帝国データバンクによると日本のコロナ関連倒産は800社超。レナウンや格安航空会社(LCC)エアアジア・ジャパンなど大型の経営破綻もみられた。
【第3位】新常態―変わる生活・企業活動
ウィズコロナ(コロナとの共存・共生)が新たな常態となり、生活様式や企業活動が大きく変化した。3密回避へソーシャルディスタンスの確保、マスク着用、手洗いが“当たり前”となり、企業もテレワーク、在宅勤務、時差出勤を積極活用するなど働き方改革を加速。他方、企業のデジタル変革(DX)には追い風となった。
老朽化・複雑化した既存ITシステムが2025年以降、年間最大12兆円の経済損失を招く「25年の崖」問題への対応を早めた。
【第4位】5Gサービス開始
3月、高速大容量・低遅延・多数同時接続が特徴の第5世代通信(5G)の商用サービスが始まった。標準化上の目標性能における最大通信速度は毎秒20ギガビット(ギガは10億)で4Gの10倍超。スマート工場や自動運転などでの活用が期待され、総務省は5Gの経済効果を約46兆8000億円と試算する。12月にはNTTドコモやソフトバンクが5G通信料の値下げを発表した。今後は基地局の整備も進む見通しで、5G普及が加速しそうだ。
【第5位】安倍首相、持病悪化で辞任
安倍晋三首相(当時)は8月28日、持病悪化を理由に任期途中での辞任を表明した。4日前の24日に連続在任期間2799日(歴代最長)を達成した直後だった。「安倍一強」の政治情勢の中、第二次以降の安倍政権は7年8カ月の長期に及んだ。この間、経済政策「アベノミクス」で株価と雇用を改善した一方、「加計学園問題」「桜問題」なども浮上。新型コロナ対策でも主導力を問われた。安倍内閣は9月16日に総辞職し、菅義偉内閣が発足した。
【第6位】バイデン氏、次期米大統領に
次期米大統領を選出する選挙人投票が12月14日行われ、バイデン前副大統領(78)の勝利が事実上確定した。2021年1月6日の連邦議会での承認を経て、同20日に就任する。史上最高齢の米大統領となる。トランプ政権の「米国第一主義」を軌道修正し、「パリ協定」に即時復帰するほか、対中貿易も報復的な関税に反対姿勢を示す。ただ、他国との連携で対中包囲網を築きたい意向を表明しており、中国との覇権争いに世界は振り回される。
【第7位】温室効果ガス「ゼロ」宣言
菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を合わせてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言した。すでに122カ国・地域が宣言していた。省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの最大限導入、さらに「安全最優先で原子力政策を進める」と表明した。この50年排出量ゼロ目標の一環として、政府は国内の新車販売について、30年代半ばにガソリン車から電動車に切り替える目標設定も検討する。
【第8位】RCEP 15カ国署名
日中韓、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国は11月15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に合意、署名した。インドは署名を見送ったが、世界貿易の約3割を占める最大の自由貿易圏が誕生する。全体の関税撤廃率は91%に達し、日本は貿易額が1位の中国、3位の韓国と結ぶ初めての経済連携協定(EPA)にもなる。環太平洋連携協定(TPP)とともに自由貿易が前進し、日系企業の国際戦略を後押しする。
【第9位】原子力政策、再始動
日本の原子力政策が再始動した。宮城県の村井嘉浩知事は11月11日、東北電力女川原子力発電所2号機の再稼働に同意すると表明。原発のある女川町、石巻市の市町長の合意を得た。2022年度以降の再稼働を目指す。東日本大震災の被災地で最初の再稼働になる。また原子力規制委員会は日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)が新規制基準に適合すると判断。“核のゴミ”最終処分場計画でも、北海道の2町村が調査を受け入れた。
【第10位】「はやぶさ2」カプセル帰還
2014年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」から分離されたカプセルが12月6日未明、地球に帰還した。豪州で回収されたカプセル内には、地球から約3億キロメートルかなたの小惑星「リュウグウ」で採ったサンプルの粒が多数確認された。太陽系・生命の起源を探る手がかりになると期待される。
他方、米国では民間初の有人宇宙船「クルードラゴン」が2度の打ち上げに成功。11月16日(日本時間)の2度目は野口聡一さんら4人の宇宙飛行士が搭乗した。
【番外編】
■英国、EU離脱
英国は1月31日、欧州連合(EU)から離脱した。前身の欧州共同体(EC)を含め、47年続いたEUとの共同体の関係に幕を下ろした。離脱を受け、ジョンソン首相は「国家として再生し、変わる瞬間だ」と語った。EU離脱は2016年の国民投票で決定するも、3度も延期。英国は12月31日に終わる移行期間を経て、ようやくEUと新たな貿易関係を築く。英国には1000社近い日系企業が拠点を構えており、その影響も今後の焦点になる。
■自動運転「レベル3」実用化目前
ホンダは11月11日、自動運転レベル3に求められる国土交通省の型式指定を取得したと発表した。レベル3の取得を国が認可したのは世界初。レベル1、2はドライバーによる監視を作動条件としたが、レベル3はシステムによる監視。高速道路渋滞時など一定の条件下ながら、新時代・新次元のクルマ社会が幕を開ける。ホンダは自動運行装置「トラフィック・ジャム・パイロット」を搭載した「レジェンド」を2020年度内に発売する予定だ。
■東証、終日停止 社長辞任
東京証券取引所のシステム障害により、10月1日の株式取引が終日停止した。全銘柄の終日売買停止は、システムによる取引が始まった1999年5月以降で初めて。金融庁は業務改善命令を発動し、宮原幸一郎社長(当時)が引責辞任する事態に発展した。故障システムをバックアップする別のシステムへの自動切り替えが5年間にわたりオフになっていた。東証は今後、システム障害で取引が停止しても、当日中の取引再開を前提とする新ルールを整備する。
■スパコン「富岳」 計算速度世界一
理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピューター「富岳」が計算速度を競う世界ランキングで6月22日に世界一を獲得した。HPC(高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2020」などで発表された。11月17日公表のランキングでも2期連続で世界一を達成し、この時は1秒当たり44.2京回(京は1兆の1万倍)の計算速度を達成し、2位の14.8京回を大きく引き離した。富岳はウイルスの飛沫(ひまつ)シミュレーションなども実施した。