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自動車、航空機、家庭への影響は?菅政権の「グリーン成長戦略」をじっくり解説

自動車、航空機、家庭への影響は?菅政権の「グリーン成長戦略」をじっくり解説

脱炭素化の切り札、洋上風力

産業界の変革やイノベーションの創出を促す「グリーン成長戦略」が始動する。電力インフラだけでなく自動車など主要産業にも脱炭素化を要請し、官民が歩調を合わせてカーボンニュートラルを実現する。技術革新やコスト削減のハードルは極めて高いが、これを避けて通れば国際競争で他国に先を越されかねない。日本企業は新たな成長の機会と捉え、脱炭素化を軸にした経営戦略に踏み出したい。(編集委員・敷田寛明、高田圭介、石井栞)

エネルギー/洋上風力 2040年に4500万kW

再生可能エネルギー主力電源化の切り札として期待される洋上風力発電。洋上風力の国内市場を創出するため政府は2030年までに1000万キロワット、40年までに3000万―4500万キロワットの導入目標を明示した。一方、産業界は国内調達比率を40年までに60%、着床式発電コストを30―35年までに1キロワット時当たり8―9円とするコスト低減目標を設定。競争力がある強靱(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)を築き、さらにアジア展開も見据える。

アンモニアは燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないため、石炭火力の混焼などで有効な燃料。30年に向けアンモニア20%混焼を導入するなど早期の技術確立を目指す。日本が世界のアンモニア供給を先導していく。

水素は新たな資源と位置付ける。導入量は50年に約2000万トンを目指す。導入量拡大により発電コストを1ノルマル立方メートル当たり20円程度以下とガス火力以下に低減し、化石燃料に対して競争力を持てる水準とする。実用段階にある脱炭素の選択肢として原子力発電所の再稼働は着実に進める。米国など海外で進む小型炉や高温ガス炉、核融合といった次世代革新炉開発に日本企業も参画し原子力技術の向上を目指す。

自動車/30年代電動化100% 蓄電池、コスト減・研究全力

基幹産業として各方面への影響が大きい自動車は「遅くとも30年代半ばまでに乗用車新車販売で電動車100%を実現」と明記し、電動化推進にかじを切る。

“脱ガソリン車”への移行を促すため今後10年間で電気自動車(EV)普及を強力に進め、蓄電池のコスト低減や研究開発に注力。世界のシェア争いの中で産業競争力を強化する。

電動車は新車販売全体の約1%にとどまる。現状からの脱却に向け導入、買い替え支援や燃費規制の活用など一体的な取り組みで消費者の需要喚起を促す。電動化が遅れていた軽自動車や商用車の対策も重点的に講じていく。充電設備や水素ステーションなどインフラ拡充や自動走行、デジタル技術活用など「車の使い方の変革」による構造転換を図る。

車両価格に跳ね返る車載電池を低コスト化していくため、規模拡大に重点を置く。30年に世界で19兆円規模に拡大が見込まれる成長市場を取り込むため、製造拠点の立地推進や資源・材料に関する大規模投資、定置用蓄電池の導入支援など車載用に限定しない幅広い普及につなげる。「30年までのできるだけ早い時期」に車載用の電池パック価格で1キロワット時当たり1万円以下の実現と並行して次世代電池・革新材料の開発支援も強化し、さらなる性能向上を急ぐ。

製造/省エネ・技術革新 再生エネ使用義務化

製造・輸送関連は省エネルギーや技術革新に向けた目標を掲げた。パワー半導体の研究開発や設備投資支援で30年までに消費電力を半減させ、世界シェアで4割となる1兆7000億円の市場獲得を掲げた。デジタル変革(DX)の加速に伴うエネルギー需要拡大に対し、30年までに新設データセンターの30%省エネ化や使用電力の一部再生可能エネルギー化の義務付けの検討を盛り込んだ。

航空機産業は技術優位性の獲得を軸に描く。機体装備品で30年までに電動化技術の確立を目指し、複合材による機体軽量化、水素航空機の実用化に不可欠なコア技術を構築。船舶関連は遠距離・大型船向けの水素・アンモニア燃料エンジンや燃料タンクなどの開発を推進。液化天然ガス(LNG)燃料船で低速航行と風力推進システムの組み合わせによりCO2排出削減率を現行比86%に設定した。

CO2の有効活用には既存品と比較した30年時点での価格目標を織り込んだ。藻類培養のバイオ燃料やCO2吸収型コンクリートは既存品と同水準価格を目指すほか変換効率の高い光触媒は製造コストの2割減を図る。

町工場も脱炭素化(イメージ)

家庭・オフィス/木造建築物の普及拡大 3R・廃棄エネ回収徹底

民生部門のエネルギー消費量削減に大きく影響するのが、住宅や建築物の家庭・オフィス関連産業だ。

高度な技術を国内に普及させる市場環境を創りつつ、海外展開も狙う。EVや蓄電池などの最適制御や住宅規制強化、木造建築物の普及拡大、建材や設備のコスト低減、「ペロブスカイト太陽電池」など次世代型太陽電池の研究開発を加速する。資源循環関連では3R(リデュース・リユース・リサイクル)の徹底や廃棄物のエネルギー回収などで50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。またライフスタイル関連では人々の行動変容などにより脱炭素のエネルギーの生産消費者(プロシューマー)への転換を目指す。

オフィス再開発もエネ消費削減が求められている

私はこう見る「負担と分担、納得感醸成を」

三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員・小林真一郎氏

カーボンニュートラルでは欧州など各国と比べ日本は遅れており、一段と政策に力を入れる必要がある。ただ、政府がレールを敷くだけでは達成は難しく、企業や家計の協力が欠かせない。一方で(コストの大きい再生エネの利用拡大は)企業活動のコスト増になり、消費者も販売価格に転嫁されるため負担は相当大きい。政府は企業や家計を説得し、負担を分かち合う仕組みと納得感の醸成に取り組む必要がある。(談)

日刊工業新聞2020年12月28日

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