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東大TLOがコロナ治療薬候補「フサン」海外治験へ

東大TLOがコロナ治療薬候補「フサン」海外治験へ

治療薬候補のナファモスタットメシル酸塩の効果を東大医科学研究所で明らかにした

東京大学TLO(東京都文京区、山本貴史社長、03・5805・7661)は、新型コロナウイルス感染症の治療薬候補「ナファモスタットメシル酸塩(製品名フサン)」のカナダ、ペルー、インドでの治験実施に向け、調整を始めた。東大医科学研究所の実験結果をもとに、東大医学部付属病院を中心にファビピラビル(製品名アビガン)との併用療法で成果を出しつつあるが、単独の効果判定については患者数の多い国での実施を目指す。用途特許のライセンス料を当面、無料にして各国での検討を呼びかけている。

ナファモスタットメシル酸塩はウイルス膜とヒト細胞膜を融合させる、たんぱく質分解酵素の働きを抑える。東大の井上純一郎特命教授らが医科学研究所の細胞実験で明らかにし、東大TLOが特許を出願中だ。すい炎や血液抗凝固の薬として国内で30年以上、使われ、安全性が確認されている点が治療薬候補として有利だ。

東大病院ではアビガンと同化合物の併用療法を、新型コロナで肺炎を発症し、集中治療室(ICU)で人工呼吸器や心肺補助システム(ECMO)を使う重症例で実施。12例中11例が退院し有効性が示された。2化合物の作用の仕組みが異なる上、一部で問題となる血栓を同化合物が抑えるためとみられる。

さらに新型コロナの軽症者も含めた、同化合物単独の効果に関心が高まる。同社はより患者数の多い外国の方が、費用負担も含め治験がしやすいと考え、大使館とのネットワークなどを活用。外国の企業や政府を動かすインセンティブとして「平常時になるまではライセンス料無料」をアピールする。

関連記事:アビガンなど併用でコロナ治療に効果あり

日刊工業新聞2020年12月29日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
治験は、製薬会社によるものにしろ医師主導型にしろ、コストがかかり、外国となると保険制度も異なっていておおごとだ。ただ新型コロナ関連だと、政府の配慮で通常よりスピーディーなど、各種の後押しがある。日本の大学でトップクラスの実績を持つ東大TLOは、技術移転先の外国の会社が主導権を持って治験するケースで経験があるが、今回のケースの先行きは見えない。が、他ならぬ東大TLOだけに、期待したいところだ。

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