【独占】元従業員からの不正会計の告発。ジャパンディスプレイ・菊岡社長は何を思った?
■不正発覚、翌日発表押し切る
ジャパンディスプレイ(JDI)の菊岡稔社長は経営再建を自ら完遂できずに去る。もっとも混乱して苦しい時期に火中の栗を拾い、曲折ありながら現筆頭株主で独立系ファンドのいちごアセットグループというスポンサーを探し出した。退任発表後初めて取材に応じた菊岡社長に激動の15カ月を聞いた。
―2019年9月末に社長に就き、20年12月31日で退任します。
「(社長就任前の)19年4月に台中企業連合『Suwaコンソーシアム』との資本提携を決めたものの、資金調達の最終化までまとまらなかった。資金繰りのため、顧客の支援を取り付けつつ、いちごを含めて代替的な選択肢を同秋から考え始めた。同12月にSuwaとの交渉をあきらめ、20年1月にいちごとの提携を発表した。財務の立て直しと事業改善を進め、十分に射程圏内だった黒字化がコロナ禍で遅れている」
―眠れなかった夜はありましたか。
「19年11月に元従業員から不正会計を告白するメールを受けた日だ。ただでさえ三重苦、四重苦なのに“爆弾”が降ってきた。相談した専門家らは『信ぴょう性も分からないので社内で慎重に調査・判明してから公表すべきだ』とし、誰1人公表すべきだと言わなかった。ただ、早く発表した方がリスク管理上も良いと考え『私が責任を取るから明日発表する』と押し切った」
―複数の金融機関を経て、日東電工と日本電産で事業経験も重ねました。その経験が社長業に生きましたか。
「日本電産はご存じの通り永守重信氏が強いリーダーシップを発揮している会社だ。永守氏との会話やメールのやりとりにおいて、『言い訳するな』とよく怒られた。『リーダーたるモノは言い訳してはいけない』と肝に銘じた。言い訳や愚痴ではなく、会社を良くするために建設的な提案まで昇華させないといけない」
―21年1月以降いちごアセットのシニアアドバイザーに就きますが、経営者として“再就職”の予定はありますか。
「その立場で一生を終える気はない。トップにこだわるつもりはないが、最後は自分で決めないといけない立場を経験したので、そういうお声がかかればうれしい」
【記者の目/ピンチヒッターの役割果たす】
いちごからの資金調達が完了した20年3月末時点で遅かれ早かれ社長退任は既定路線だった。コロナ禍で年末まで延びただけとも言える。15カ月のピンチヒッターだったが、不正会計対応や資金調達、構造改革という結果は残した。JDIが将来再建を成し遂げた際はプロ経営者としての評価も見直されるかもしれない。(編集委員・鈴木岳志)