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V字回復の中国経済、コロナ禍からも迅速に立ち直った「インターネット・プラス」

V字回復の中国経済、コロナ禍からも迅速に立ち直った「インターネット・プラス」

「民→官」の連携も少なくない(習近平国家主席)

デジタル戦略推進が奏功

中国経済がV字回復に成功した背景にはデジタル戦略がある。李克強首相は2015年、「インターネット・プラス(+)」と称するデジタル戦略を打ち出した。そして、中国では+農業、+製造業、+商業、+労働、+医療、+教育など随所でデジタル化が加速していった。その後のデジタル発展は目覚ましく、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界デジタル競争力ランキングを見ると、16年の35位から20年には16位にまで順位を上げ、ドイツ、フランス、日本を追い越すこととなった。

中でも、「機会や脅威に対する企業の迅速な対応」に対する評価は極めて高く、米国や韓国を上回る高評価である。今回のコロナ禍という脅威に際しても、アリババやテンセントといったプラットフォーマーがいち早く「健康コード」を開発導入するなど迅速な対応を示した。また、中国は「官民連携による技術開発の支援」にも強みがある。

中国経済は「官→民」のトップダウン一辺倒と思われがちだが、「民→官」の連携も少なくない。前述の「健康コード」にしても、アリババなど民間企業が開発導入した後、地方政府がそれを取り入れて、防疫管理と経済活動の両立に寄与した。なお、コロナ禍を巧みに切り抜けた台湾に対する評価もこの2項目は高く、逆に日本は低い評価に甘んじている。

今回のコロナ禍ではこの「インターネット・プラス(+)」が大活躍することとなった。「+医療(オンライン医療)」、「+教育(オンライン教育)」、「+労働(リモートワーク)」はもちろんのこと、「+商業(ネット販売)」の活躍も目立った。電子商取引(EC)が小売売上高に占める比率は、コロナ前の19年時点で既に20・9%と、中国は米国を上回っていた。

そして、コロナ禍でソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)が必要となり店頭販売が苦境に陥った際には、非接触型のEC取引がその威力を発揮し、EC比率は25%を超えることとなった。

さらに、ネット生中継によるライブコマース(直播)が人気を博し、個人消費全体が落ち込む中でもEC取引は2ケタの伸びを示した。ここで業界をリードしたのもアリババやテンセントといったプラットフォーマーであり、それにティックトック(TikTok)やビリビリ(bilibili)といった新興企業が加わった。

そして、中国政府はデジタル化による構造改革をさらに推し進めようとしている。今年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「両新(新型インフラと新型都市化)」の建設を重点的に支援する方針を示した。

すなわち、次世代情報ネットワーク、データセンターなど新しいタイプのインフラ建設を推進するとともに、公共衛生、ゴミ・汚水処理システム、地下共同溝、高度道路交通システム(ITS)、新エネルギー車用充電設備、公共駐車場など新しいタイプの都市化を同時並行的に進めることになる。米中対立で苦境に陥った華為技術(ファーウェイ)は既にこの分野に舵(かじ)を切り、世界40カ国で事業展開している。

(文=三尾幸吉郎<ニッセイ基礎研究所経済研究部・上席研究員>)
日刊工業新聞2020年12月23日

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