ロボットスーツを家庭に!サイバーダイン、利用者5000人への挑戦
「来年早々にもテレビCMを開始し、HALの知名度と利用者を拡大したい」と、サイバーダインの山海嘉之社長は語る。HALは同社が開発した身体装着型のリハビリ用ロボットスーツ。一般的なアシストスーツと違うのは、医療機器に近い点だ。装着者が「いすから立ち上がりたい」「前に歩きたい」などといった動作の意思を反映した生体電位信号を読み取り、それに沿って左足を1歩踏み出すなど身体の動きをサポートする。
これまで主に医療機関向けを念頭に展開してきた。そのため重要となるのが、当局の承認だ。医療機器として認められるためには製品に効果があったことを証明する治験データの収集が求められる。
数年はかかる作業で「長い道のりだった」(山海社長)が、脳卒中や脊髄損傷の患者向けを中心に米国や欧州連合(EU)、サウジアラビア、マレーシア、インドネシア、タイ、豪州などで相次いで医療機器の承認を取得した。日本でも脳卒中の患者への治験が終了した。今後、国内外で承認が進めば医療機関への販路開拓に弾みがつく。
一方、より大きな需要があると期待されるのが家庭向け市場だ。高齢化がさらに進み、リハビリを必要とする高齢者のニーズは増えている。特に新型コロナウイルスの感染で重症化の恐れのある高齢者は外出を控え、自宅に閉じこもりがちだ。それまでは歩いて買い物に出かけていたのに、家の中で過ごしている時間が長くなることで身体機能の低下が進み歩けなくなったり、認知症を発症したりする懸念もある。
高齢者の運動量が低下すれば、将来的に寝たきりになる可能性を増やすことにもなる。こうした課題を解決するためサイバーダインは、HALを貸し出す個人向けサービス「ニューロHALフィット」を4月に始めた。だが、利用者はあまり伸びなかった。HALを知る高齢者が少なく、装着する前に全国16カ所のロボケアセンターのいずれかで講習を受けることが必要で、自宅近くに同センターがない利用者にとって負担となるためだ。
月額料金体系
そこで11月に内容を刷新した。新サービス「自宅でニューロHALフィット」は料金体系を分かりやすく月額4万8000円からとし、HALを自宅で装着できるようにした。申し込むとカメラモニター機能がついた端末とHAL本体、Wi―Fi(ワイファイ)ルーターが自宅に届き、専門スタッフとオンラインでリハビリやトレーニングができる。
同社はテレビCM効果を含め新サービスの利用者を1年後に5000人まで増やしたい考えだ。さらに量産効果でHALのコストを下げるだけでなく、装着する人の動作データと連携することで見守り支援などの福祉サービス、サイバニクス治療に応用したいとの思惑もある。目下の課題は初期設定などIT操作に不慣れな高齢者への対応だ。スマートフォン対応や、自治体職員と組むなどの方策も必要となりそうだ。(編集委員・嶋田歩)