トヨタ系部品メーカー、新型「ミライ」量産に対応しFCV技術を積み上げる
水素社会実現の機運が高まる中、トヨタ自動車系大手部品メーカーが燃料電池車(FCV)関連技術を積み上げている。デンソーや豊田合成などが、トヨタの新型FCV「MIRAI(ミライ)」向けに新開発した部品の供給を開始。性能向上などに貢献している。トヨタは新型ミライを本格普及の契機とし、燃料電池(FC)システムの展開拡大を目指すとしている。利用が広がれば、各社にも先行メーカーとしての恩恵が期待できる。
「表面を薄型化しながらも強度を保つ技術を盛り込んだ」。豊田合成の小山享社長は、新技術についてこう説明する。同社は11月に本格稼働を始めたいなべ工場(三重県いなべ市)で、新型ミライの車両後部に搭載する3本目の高圧水素タンクを生産する。タンクの外壁には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などを巻き、約70メガパスカルの高圧に耐えながらも小型軽量化を実現。タンク質量に対する水素の充填量を約1割増やし、航続距離延長に寄与した。
初代ミライで手がけていたのは樹脂ライナーと呼ばれる容器のみだったが、トヨタと協力してタンク全体の製造技術を確立。生産面でも次の工程に進む際に、自動で空いているラインを判別して運ぶ無人搬送機を活用するなど、自動化技術で効率を高めコストを削減した。小山社長は「商用車などさまざまなニーズに対応し開発を進める」と、用途拡大に期待を寄せる。
デンソーは、次世代半導体の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体を使った新型パワーモジュールを開発。従来比で体積は約3割、電力損失は約7割低減し、小型化や燃費向上につなげた。
豊田自動織機は、FCVを駆動させるのに必要な酸素を送り込むエアコンプレッサーと、未反応の水素や電気を作りだした後に生じる水を循環させる水素循環ポンプを新開発した。
中でもコンプレッサーは空気を圧縮させるためのローラーの位置を変えられるようにし、ターボチャージャー(過給器)並みに回転数を上げて圧縮効率を従来比24%向上。同35%の軽量化と同45%の小型化を実現した。「商用車だけではなく定置用FC発電機や船舶などにも展開する予定だ」(担当者)と、採用拡大を視野に入れる。
水素充填口などに使う高強度ステンレス鋼を新規開発したのは、愛知製鋼だ。従来、強度を高めるにはレアメタル(希少金属)のモリブデンが不可欠だったが、安価な材料である炭素を素材に混ぜることで、水素によってもろくなってしまう素材の弱点を克服。コストを従来比で約1割削減しつつ、従来と同等の強度を確保した。
野村一衛経営役員は「水素ステーションや水素インフラの部材に利用拡大できれば」としつつ「要求があればさまざまなメーカーと取引したい」と、意欲を見せる。
今回、新型ミライは生産量を10倍引き上げ、本格的な量産体制を構築している。部品各社も量産を見据えた製品開発や生産技術を蓄積してきており、このノウハウは今後の普及拡大時にも生かせそうだ。
(取材=名古屋・政年佐貴恵)