コロナ重症化で発症する「急性呼吸窮迫症候群」、“へその緒”が治療に役立つ?
第1相試験で患者投与へ
ヒューマンライフコード(東京都中央区)は、へその緒由来の間葉系細胞を、新型コロナウイルス感染症が重症化して発症する「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」の治療に活用する。肺で炎症性細胞が活性化されて組織が傷つく疾患で、重度の呼吸不全を招く。間葉系細胞はこの過剰炎症を抑える可能性がある。同治療薬開発は日本医療研究開発機構(AMED)に採択され、産学官連携も推進中だ。原田雅充社長に話を聞いた。
―現在の状況を教えてください。「第1相臨床試験で患者に投与する体制が整った。1人に投与して安全性をみる、確認できたら次の患者に投与するという流れだ。重篤な有害事項が発生しない限りまずは3例で終了する予定」
―ARDS治療に効果を発揮するのは、どのような機能ですか。「炎症を抑える機能だ。さらにへその緒由来の間葉系細胞には組織を修復する効果も期待できる。また通常必要な白血球抗原(HLA)型の一致も不要だ。過剰炎症下でもHLAの発現が抑えられ、投与を繰り返しても安全かつ有効性を維持できると見られる」
―他にへその緒由来だからこその強みはありますか。「コロナ禍にあって、海外に頼らず原材料を調達できるのは大きな強み。へその緒由来の間葉系細胞は、骨髄や脂肪由来に比べて増殖能力が高い。1本のへその緒から1000人分の製剤を作れる。必要な時に使えるように冷凍保存も可能。またドナーに負担を与えないのも利点だ」
―ARDS治療以外の効果は。「疾患や集中治療に伴い筋力が低下してしまう疾患、サルコペニアに対する予防・治療法になるのではと期待している。新型コロナ由来のARDSから回復した人の後遺症としてもみられる症状の一つ。全身に炎症が継続している状況と考えれば、間葉系細胞による治療も可能だ」
―他に臨床研究が進んでいる疾患は。「移植片対宿主病(GVHD)については、第1相臨床試験が完了している。骨髄移植後に発症する疾患で、こちらも過剰炎症が原因。安全性が確認できており、2相試験の準備を進めている」
創薬ベンチャーの強みを生かせます。「意思決定が迅速なのはもちろん、開発計画になかったARDSを臨床試験までもっていけたように、敏感に変わる医療ニーズに柔軟な対応ができる。当社だからこその社会貢献の形を追求したい」
記念にとっておくだけだったへその緒に、利用価値が生まれ始めている。ただ、へその緒を保存する習慣は一般的でなく、同社の成長において重要な課題となりそうだ。また炎症は体内のあらゆる部位で起こる。ARDSの治療薬として完成させられれば、展開の幅は広い。業界の注目は高く、成功事例となることが期待される。(門脇花梨)