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貸会議室大手のTKPが邁進、コロナ禍が変えたオフィス市場の勝ち筋

連載・変革する働く場を狙え #03
貸会議室大手のTKPが邁進、コロナ禍が変えたオフィス市場の勝ち筋

TKPは傘下の日本リージャスとの経営一体化を加速させている

貸会議室大手のティーケーピー(TKP)は、傘下に持つシェアオフィスの日本リージャスホールディングス(※)との経営一体化を加速させている。新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワークの広がりにより、急拡大するサテライトオフィス需要を掴むためだ。サテライトオフィス需要は不動産大手なども狙い、出店を積極化しているが、TKPの河野貴輝社長は世界最大手のシェアオフィスブランド「リージャス」には圧倒的な競争力があると考える。

さらにTKPが全国で運営する貸会議室用のスペースを使って「新しい働き方の提案に挑戦したい」と意気込む。河野社長にコロナ禍による事業環境の変化と今後の戦略を聞いた。(聞き手・葭本隆太)

日本リージャスホールディングス:TKPは2019年に世界でシェアオフィスを展開するIWGの日本法人「日本リージャスホールディングス」を買収した。IWGは世界110カ国以上で約3300カ所のシェアオフィスを展開し、日本では「リージャス」ブランドなどで全国164カ所(2020年8月末時点)に展開している。

サテライトオフィス需要に焦点

―コロナ禍が御社の事業に与えた影響を教えて下さい。
 貸会議室はこれまで時間貸しでしたが、2週間から1ヶ月程度貸す中期のニーズが増えています。会議室としてではなく「緊急避難型オフィス」としての需要です。例えば「決算発表に向けて監査法人と打ち合わせる仕事場が必要だが、本社に入れない」といったケースがありました。TKPの会議室はオフィスだったスペースを会議室に変えているのでオフィスに戻すのは簡単です。リージャスは、受け付けやコピー機、カフェサービスなどを備えており、手ぶらで来て仕事が出来ますが、料金は高いので、予算をかけたくない人はTKPのスペースを(オフィスとして)リーズナブルに借りたい。そうしたニーズを今取り込んでいます。

TKPの河野貴輝社長

―リージャスを中心に展開するシェアオフィス市場の変化はいかがですか。
 企業側の新しい動きとして、社員が自宅や顧客企業の近くで働けるサテライトオフィスを用意するところが出てきています。そういった場所があれば通勤時間が圧縮され、働く効率が上がります。この動きは(さらに)広がると思います。

―今後の出店戦略においてもサテライトオフィス需要は焦点になると。
 (住宅地から東京都心への)ハブになる新宿や池袋、渋谷、上野、横浜、大宮などのターミナル駅には直営で出店し、大企業の社員がしっかり働けるワークスペースを作りたいと考えています。一方、八王子や立川など(の首都圏郊外)は自宅より効率よく働ける場所を提供すればよいと考えています。(現地企業などとの)フランチャイズ契約や運営受託で出店を広げる方向で検討しています。我々の強みはブランド力とネットワーク力ですが、(首都圏郊外を含めた)後者を高める上で直営にこだわっていると、店舗数はなかなかそろいません。

―出店はリージャスブランドが中心になるのでしょうか。
 今まさにマトリクスを作っているところです。ハイエンドはリージャスブランドと考えていますが、中小企業やスタートアップを顧客として想定すると、リージャスは高額過ぎるかもしれません。(割安な)TKPオリジナルの仕組みで出店できないかを検討しています。一方、起業を経験した私としてはTKPのスペースを有効に使ってスタートアップを支援するラボを作りたいと思っています。スタートアップはオフィスを作るだけでは駄目で、投資したりビジネスモデルに対して助言したりするインキュベーションの機能が必要です。それをどこかと提携して行うなど、色々と方法を考えていきます。

東京都心部における今後の出店エリアイメージ

ネットワークはお金に替わる

―サテライトオフィス需要は大手の不動産会社なども狙っています。競合環境をどう見ていますか。
 「リージャス」は世界でナンバーワンのブランド力を持っていますし、不動産大手などのシェアオフィスは世界のネットワークと接続できているわけではありません。リージャスの利用者は海外出張時も(リージャスの)ラウンジで仕事をしたり、顧客を迎え入れたりできます。1日だけの駐在所として使えます。また、国内のリージャスの拠点も欧米のビジネスパーソンなどに利用されるプラスアルファの収益源があります。シェアオフィスは一から作れますが、単に作って貸すではダンピング競争に行き着きます。ネットワーク力はお金に替わりますし、完全に差別化できます。

―あまり競争相手とは認識していないのですか。
 長い目で見れば、パートナーになり得ると思っています。シェアオフィスは、小口化すればするほど初期コストがかかり、運営の手間もかかる難しいビジネスです。(不動産大手などは)自社物件の中でシェアオフィスのスペースを作るのはわかりますが、(各社にとって)わざわざ物件を買ったり借りたりしてまで注力するようなビジネスには成長しないと思います。今はブームだから、自ら取り組むのだろうと思いますが、収益状況は厳しいと思います。それならいずれ「我々が(そうした施設を)すべて運営しますよ」と言えるかなと思っています。

リージャスのシェアオフィス

―難しいシェアオフィス事業を御社はなぜ収益化できるのですか。
 運営のノウハウと規模があるからです。特に規模のメリットが大きいです。

仕入れの好機がやってくる

―11月に日本リージャスの代表権を持つ会長(従前は取締役)に就任しました。
 物件の仕入れや大企業への営業などをTKPとリージャスが一体で行っていくということです。TKPは時間貸しの会議室により、研修・採用活動用の場所を企業に提案するルートを持っています。そのルートにおいてサテライトオフィスを提案して同じ顧客を昇華させます。ブランドは別のままでいいですが、顧客は重なっているのでクロスセルをしていきたいと考えています。

―その判断はコロナ禍がきっかけだったのですか。
 TKPの20年2月期決算は絶好調でした。ですから「リージャスはリージャスで」とも思っていました。文化を変えたくない思いもあり、人員交流はせずにきました。ただ、今はそんなことをいっていられません。特に仕入れがこれから大事な局面に入ります。オフィスの需給バランスがB・Cクラスから緩み、2023年に向けてAクラスも緩むと思っています。17-19年に新築ビルがたくさんでき、その賃貸契約の終了を23年ころに迎えます。23年は新築ビルの供給も多く予定されています。その中で、コロナが収束して(コロナ前のように)「会社に来い」と命令する経営者がほとんどであれば話は別ですが、(多くは)本社を縮小するのではないかと私は思っています。(そこで)空いたスペースはTKPとリージャスでできる限り押さえたいと考えています。

―御社にとって大きなチャンスが来ると。
 仕入れはいつでもできるわけではありません。これまでは仕入れる場所がなく、大塚家具(との資本業務提携により同社のショールームでTKPの貸会議室を展開する)などスペースを捻出してきました。本当はオフィスビルがいいのです。その本家本丸が出てくるのであれば、我々にとってチャンスです。

新しい働き方を提案する

―今後ネットワークを広げようとしている首都圏郊外にはシェアオフィス用の物件はあるのでしょうか。
 (郊外の)百貨店や住宅展示場などは平日昼間はなかなか人がいません。百貨店も最上階にシェアオフィスを作れば(仕事帰りに百貨店内の店舗で買い物をしてから帰るなど)「シャワー効果」が期待できます。百貨店も平日の顧客がいないと嘆いているばかりではなく、テレワークで使えるようにスペースの一部を貸し出せばよいのです。そのように発想すればいくらでもあります。

地方自治体も公民館などの空きスペースを(地元住民によるテレワーク用に)用意するとよいと思います。平日昼間にワーカーがいるというのは地域活性化につながります。我々としてもそうした取り組みと連携するのはやぶさかではありません。

―TKPの貸会議室はコロナ禍でオフィス利用による需要が増えているとおっしゃっていました。働き方が変化する中で今後、貸会議室用のスペースを使っていろいろな提案ができそうです。
 TKPは割安に借りているスペースが全国に約18万坪あります。国内最大級の規模です。(働き方やオフィス需要が変化する中で)これを貸会議室のままにしておくのはもったいない。TKPが考える新しい働き方を提案できるかもしれません。その提案にはすごい影響力があると思います。それに挑戦したいと思っていますし、これからの(成長の)肝になると考えています。

連載・変革する働く場を狙え(全5回)

#01 コロナ禍で熱狂の郊外シェアオフィス、市場を制するのは誰か(12月7日公開)
 #02 家賃2万円上昇も。都心賃貸「徒歩0分」オフィス設置がトレンドに?(12月8日公開)
 #03 貸会議室大手のTKPが邁進、コロナ禍が変えたオフィス市場の勝ち筋(12月9日公開)
 #04 オフィスから仮想世界を作る。ベンチャーが事業撤退からの再挑戦(12月10日公開)
 #05 コロナ禍で脚光の「ふるさと副業」。成功の必須条件(12月11日公開)

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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
コロナ禍に伴う在宅勤務の広がりは自宅近くで1人で集中して働ける場所の需要を急拡大させました。ただ、今回生まれた働き方の変化の大きな流れは、個人で集中して働ける場所の需要の創出に留まらず、働く場所をもっと多様にしていくという声が聞かれます。そうした取り組みをめぐっては、新たな働く場を作っていけるスペースを全国に18万坪を持つTKPには大きなアドバンテージがあると言えそうです。

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新型コロナウイルス感染拡大は強制的に働き方を変えました。それによって働く場をめぐる新たな需要が生まれています。その需要を狙う企業たちの動きを追いました

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