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車づくりの知恵が活きる!トヨタの改善重ねた消毒スタンド

トヨタ自動車は25日、12月1日に足踏み式消毒スタンド「しょうどく大使」を発売すると発表した。月2000―2500台規模で生産をはじめ、国内のトヨタ販売店やレンタリース店を通じて売り出す。スタンドを製作し市販化プロジェクトを立ち上げたのは、普段は生産に携わっていない社員ら。トヨタに根付くモノづくりと“カイゼン”の力が、部署の枠を超え商品化を実現した。(名古屋・政年佐貴恵)

スタンドは大きさが幅33センチ×奥行き43センチ×高さ約117センチメートルで、重さは約3・2キログラム。消毒ポンプの高さは90センチ―120センチメートルの間で調節でき、子どもや車いす利用者にも対応する。価格は8000円(消費税抜き)と、市販品より5―6割程安価に設定した。生産は上郷部品センター(愛知県豊田市)で行う。

市販化を進めたのは、高岡工場(同)で修理部品などの供給を行うサービスパーツ物流部だ。新型コロナウイルス感染対策として消毒スタンドの製作を決定。生産のノウハウはなかったが、全社の技能人材育成を担うグローバル生産推進センター(GPC)の協力を得て「からくり」などを活用し作り上げた。当初は自社での利用を想定していた。

そんな時に耳にしたのが、トヨタが生産性改善を支援している医療機関からの市販の消毒スタンドに対する不満の声。「自作スタンドを外販すれば、顧客にも貢献できるのでは」―。こうしてプロジェクトが始まった。

試しに完成したスタンドを医療機関に提供したが、重量や使い勝手など課題があらわに。改良し再び使ってもらうと、さらなる改善点が浮かんでくる。磯部大祐課長は「世に受け入れられるには改善を繰り返すのが大切だと知った」とかみしめる。販売店やオフィスなど、試用してもらった施設は64カ所。試作数は30種類にのぼった。

生産面は、GPCに所属経験のある青木勇介チームリーダーが主導し、実際に車両生産している部署とも連携した。遊休金型を活用したり、車生産に使っている素材や既存設備を応用したりと、コストを徹底的に低減。生産工程は切断、塗装、組み立てのみとし、設計段階から工夫してできる限り簡素にした。組み立て用の専用治具を用意するなど、作業の標準化も実施。車づくりの知恵を生かした。当初は1台当たり90分だった組み立て時間も、現在では同20分に短縮。今後は同5分を目指してさらに改善を進めるという。

トヨタの強さの一つはトヨタ生産方式(TPS)に代表される現場力だが、生産に携わらないと身近に感じられない部分があるのは否めない。磯部課長は「トヨタのDNAである『現地現物』や『TPS』『良品廉価』をリアルに感じられた」と、人材育成の面でも手応えを見せている。実際に消毒スタンド製作は「モノづくりの心を事務系・技術系社員にも広げたい」との趣旨で、コロナ禍で現場研修ができない新入社員の研修にも使われた。

100年に1度の大変革期を前に「トヨタをフルモデルチェンジする」と危機感をあらわにする豊田章男社長は、現場の意識改革にも発破をかけている。現場主導の今回の取り組みは、一つのヒントになりそうだ。

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