「メタネーション」を夢の技術で終わらせない!国際石油開発帝石が描くCO2再利用の大団円
地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を「炭素資源」として再利用する「カーボンリサイクル」。実用化へ向けとりわけ大きな期待が寄せられる技術のひとつが、CO2と水素からメタンを合成する「メタネーション」である。
天然ガス生産時に生じるCO2を都市ガスの原料として再利用するプロジェクトを展開する国際石油開発帝石が、CO2からメタン生成する設備を稼働してから1年あまり。設備の心臓部にあたる反応器にはプレート型を採用し、さらに事業所内で分離・回収したCO2を活用するメタネーション試験としては世界初の試みだ。再生可能エネルギー・電力事業本部のシニアコーディネーター、若山樹さんは将来をこう展望する。「2030年以降の商用化への道筋は見えてきました。今後は普及に向けた経済合理性の追求と、『脱炭素燃料』として温暖化対策上、制度としてどう位置づけるのか。このふたつが課題となるでしょう」。どういうことなのかー。
2030年超の商用化にらみ世界初の試み
プロジェクトの舞台は新潟県長岡市にある国内最大級のガス田。国際石油開発帝石が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日立造船と共同で完成させた試験プラントである。現時点のメタン生産量は年47トン程度だが、権益を保有する海外のガス田などでもこれを展開し、2025年には約5万9000トン、2030年以降の商用段階では年35万トン規模に拡大する計画だ。
反応そのものは20世紀初頭から知られていたメタネーションだが、世界的にも実用化へ向けた動きが加速するのは、脱炭素社会実現の切り札と目されるからだ。日本も地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が目指す温室効果ガス削減目標の達成に向けた政府の戦略で「革新的技術」と位置づけている。
既存インフラが活用可能
もとよりCO2をメタンにして有効利用できれば、ガス田に眠る天然ガスの消費量を抑制できることは言うまでもないが、メタネーションの利点は、既存のインフラを活用できること。メタンの成分は天然ガスとほぼ同じであることから、既存の都市ガス用導管を通じて供給でき、家庭や工場の既存機器で都市ガスと同じように扱える。一連のプロジェクトでは、都市ガスに混ぜたメタン供給も検討しており、自治体やエネルギー関連企業との調整を2021年にも始めることにしている。
さらに原料となる水素についても再生可能エネルギー由来の電気でつくったものに切り替え、CO2排出量をさらに抑える方針だ。太陽光発電や風力発電などの電気を使って生成した水素を用いて製造した「再エネ由来メタン」は、CO2排出の少ないエネルギーとして見なすことができるからだ。
「夢の技術」で終わらせないために
問題は、その水素の生産コスト。メタネーションは、水の電気分解による水素生産と、得られた水素とCO2からのメタネーションの2つの技術で構成されるが、再生可能エネルギー由来電力を用いる場合、電力価格が大きく影響する。
メタンは炭素原子1個に4個の水素原子が結合しているため、1キロワット時あたり5円の再エネ電力を用いて作った1ノルマル立方メートルあたり25円の水素を用いた場合、メタン価格は4倍にあたる100円に跳ね上がってしまう。こうした化学的な構造からも一目瞭然のように、メタンの普及には水素生産コストをいかに抑えるかがカギとなるのだ。
エネルギーとしての利便性や実用性に加え、社会に広く普及させる上では、再エネ由来メタンの「カーボンニュートラル」としてどう位置づけるかといった制度設計もカギとなる。欧州では、製造時のCO2排出が少ない水素を「プレミアム水素」として認証する動きがあるが、若山さんは「早晩、『プレミアムメタン』といった概念も登場する」とみている。
温暖化対策の切り札となる「夢の技術」を夢で終わらせない。そのためには、海外の認証や規格化動向もにらみながら、産業界の取り組みを促す枠組みや政策面での後押しが一層、重要になりそうだ。