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ANAの“冬眠戦術”、コロナ禍のトンネルを抜け出せるか

ANAの“冬眠戦術”、コロナ禍のトンネルを抜け出せるか

航空会社にとって機材調達は要となる。ANAのネットワーク拡大の象徴だった「B787」(羽田空港)

需要回復期 再成長

ANAホールディングス(HD)は27日、新型コロナウイルス感染症による航空需要の低迷期を乗り越えるための事業構造改革計画を発表した。保有機材の削減で一時的に事業規模を縮小するとともに、航空市場の質的変化への適応を探りながら、需要回復期での再成長を期す考えだ。未曽有の航空不況と不可逆的な行動変容という危機的状況に、成長シナリオを描きつつ、縮こまる“冬眠戦術”で対応する。

航空市場‐質的変化に適応

【コロナ 影響長期化】

量と質が大きく変化する。変化に対応した強靱(きょうじん)なANAグループに生まれ変わり、持続的な成長を目指す―。

片野坂真哉ANAHD社長は27日都内で開いた会見で、構造改革の意義を強調した。同日公表した2021年3月期の連結業績は、会社発足史上最悪となる当期損益5100億円の赤字を見込む。

ANAHDは21年3月期末で国内線がコロナ前の7割、国際線が同5割と需要の回復を想定する。片野坂社長は「21年度は、あらゆる手を打ち、必ず黒字化を実現する」と力を込める。

国内線は回復傾向にあるが、国際線の本格再開は見通しが立ちにくい。ただ2期連続の赤字計上は会計上のルール適用が厳しくなり、回避したいところだ。片野坂社長は「トップとして意思を示した」と説明する。

【事業縮小で収支均等】

国際航空運送協会(IATA)は、世界の航空旅客需要がコロナ前の水準に戻るのを24年と想定する。これを受け、世界中の航空会社が「小さくして再出発しないといけない」(ANA元幹部)と事業縮小に着手した。

ANAHDも、急激な需要回復が見込めない中では「一時的に小さくしてコロナのトンネルを抜ける」(片野坂社長)とし、運航規模の適正化を図って固定費を圧縮し、早期の収支均衡を目指す。

事業縮小では大型機を中心に機材数の削減を実施する。東京五輪・パラリンピックに向けて国際線の大型機材の増便を計画していたが「このままでは大きな負担になる」(同)とし、年度内に大型機のボーイング777型機22機を含む28機を追加で早期退役させる。機材の受領延期を含めて、グループ全体で年度末時点で当初計画比33機減る。

発注済みの機材もキャンセルではなく「2年ほど後倒しで(メーカーと)調整を終えている」(同)と言う。従来の調達計画は後ろ倒しながらも維持しつつ、老朽機の退役を早めれば、一時的に保有機材を縮小できる。国際線回復期の機会逸失を避け、将来の再拡大へのチャンス温存も図れる。

人員については働き方の多様化や外注業務の内製化、グループ外への出向、人員再配置などで「社員の雇用を守る」(同)方針を堅持する。片野坂社長は出向について「ヒコーキだけで暮らしてきた方がヒコーキ以外のところで勉強することで、会社にとって、大いなる刺激になる」と話す。将来の成長につなげる考えだ。

那覇空港貨物ハブは全休している

従来の事業モデル脱却 第3のブランド就航へ

27日発表した構造改革では航空ビジネスモデルの変革も盛り込んだ。コロナがもたらす人々の行動変容で、航空需要の量・質ともに不可逆的な変化が想定される。ビジネスの移動は、コロナ前の水準には戻らない一方で、観光や交流を目的とする移動は堅調に回復する。この前提に立つと従来のビジネスモデルからの脱却が急務だ。

ANAの国際線はビジネス客がメーンターゲットだ。1986年に悲願だった国際線定期便に進出するも「18年間赤字」(片野坂社長)。歴代トップが社内の“撤退論”を何度も退け、苦労して黒字化を勝ち取った戦略がビジネス客の多い路線への集中投資だった。ビジネス客は上位座席の利用が多く、投入機材もこれを念頭にクラスを構成してきた。このビジネスモデルの見直しが必須となる。

ANAHDはANAと格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションに次ぐ、第3の航空ブランドを、航空需要の回復をにらみながら22年度にも運航開始する。エアージャパンを母体とすることで国際線中距離LCCを速やかに立ち上げ、需要を取り込む。

国内路線効率化へ「ピーチ」と連携強化

片野坂社長は「外国人派遣会社のパイロットを使う。パンデミックが将来再発生しても人件費の変動に対応できるのが強み」と説明する。2クラス制のボーイング787を使ってシンプルサービスに特化。4路線程度で運航を始め、軌道に乗せた後は10機程度での展開を想定。拠点は成田が有力だという。

一方、20―30代を主要顧客としていたピーチは、ビジネス客やファミリーもターゲットとし、航空貨物に参入するなど事業領域を広げていく方針だ。ANAとの連携も強化。ANAマイルとピーチポイントの交換も始める予定。国内線ではANAに代わって、フルサービスキャリア(FSC)では採算性の厳しい一部地方路線などを担っていくことにもなりそうだ。

会見する片野坂ANAHD社長

片野坂社長は「競合が起きないように路線の選択、マーケティングを組み立てていく」と説明。発足以来、独立独歩だったピーチはコロナ禍を経て、グループで新たな役割を担うことになる。

変革の本丸はANAだ。品質からエコロジー・パーソナル・スマートフォン活用をキーワードに“プレミアムエアライン”として、サービスモデルを変えていくと示す。

非航空事業では、長年懸案であったデータマーケティングによる新たなプラットフォームビジネスの具現化に取り組む。マイレージプログラムやカード事業などの顧客接点を活用し、社外サービスも取り込んで“ANA経済圏”を創出する。

21年4月にANAセールスの旅行事業をマーケティング会社のANA Xと統合し、構想を加速する。

デジタル化が進む旅行事業を取り込み、顧客をグループのサービスに誘導していく考えだ。

日刊工業新聞2020年10月28日

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