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化学、鉄鋼、航空・鉄道...下期は素材に持ち直し期待も

下期を読む#3
化学、鉄鋼、航空・鉄道...下期は素材に持ち直し期待も

粗鋼生産は回復の動きがうかがえる(日本製鉄君津地区)

素材 持ち直しに期待感

2020年度下期は自動車販売の復調を見込み、鉄鋼や化学などの素材産業で持ち直しへの期待感が高まっている。一方で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、ゼネコンやエネルギーなどでは需要回復になお時間がかかりそうだ。中でも航空・鉄道は低迷した移動需要の早期回復が困難な状況。コロナ禍による不可逆的な変化を見据え、事業の再構築がカギとなる。

鉄鋼・非鉄 鉄鋼・減産緩和/非鉄・5G停滞懸念

鉄鋼は持ち直しの動きがうかがえる。8月の粗鋼生産量(速報)は前年同月比20・6%減の644万6000トン。

自動車の生産回復や中国の需要増を受け月を追って減少幅が縮小。一時休止していた高炉は一部で通常操業に戻りつつある。JFEスチールは広島県福山市の高炉1基を9月に再稼働。日本製鉄は千葉県君津市の高炉1基と、改修中の北海道室蘭市の高炉1基を11月下旬をめどに通常操業に戻す。経済産業省は10―12月期の国内粗鋼生産量が2111万トンと、3四半期ぶりに2000万トン台を回復するとみている。

非鉄金属の需要見通しは不透明感が漂う。中国の経済活動再開で需要増が期待される一方、新型コロナの感染が再拡大し自動車販売の減少や第5世代通信(5G)の普及遅れなどの懸念材料もある。日本鉱業協会の宮川尚久会長は「ウィズコロナ、アフターコロナでは、物資の安定供給確保やサプライチェーン(部品供給網)の強化など国内の供給体制の維持・確保が重要だ」と指摘。下期は各社がサプライチェーン対策に力を入れる。

航空・鉄道 事業縮小や構造改革、本格化

新型コロナの感染拡大で激減した移動需要は、早期の回復が難しい。航空・鉄道各社は一層の固定費削減や投資見直しでキャッシュアウト抑制に努める一方、アフターコロナの社会環境変化に適応するため、サービスやポートフォリオの再構築に取り組む。

航空は水際対策の継続で、国際線がコロナ前の9割減。国際航空運送協会(IATA)はコロナ前の需要水準に戻るのが24年と予想する。日本航空(JAL)の赤坂祐二社長は「もうちょっと悲観的なシナリオも用意している」と明かす。海外航空会社と同様に事業縮小が本格化しそう。ANAホールディングス(HD)は月末に構造改革案を発表する。

JR東日本は21年春の時点で定期がコロナ前の85%、新幹線は同55%の回復と想定する。深沢祐二社長は「鉄道全体の利用は100に戻らない」と見て、終電繰り上げのようなサービス見直しやピーク平準化によるコスト低減で“持続可能な鉄道”を目指す。

移動需要の早期回復は難しい

ゼネコン 民間の設備投資、様子見

ゼネコンの下期は、企業の働き方改革によるオフィス需要の減退で民間受注の遅れが見込まれる。新型コロナの感染拡大で、民間企業の設備投資計画が不透明になっている。

日本建設業連合会(日建連)の山内隆司会長は9月の会見で「建設投資に意欲を持つ民間企業は限られている。今後、間違いなく仕事が減るだろう」と述べた。日建連の受注調査では、8月は前年同月に比べて6カ月ぶりに回復した。しかし、回復したのは前年同月が低水準だったことや、すでに決まっていた大型不動産物件が集中したためだ。

民間建設投資はコロナ下で先送りも見込まれる(イメージ)

民間の設備投資について、大手ゼネコン幹部は数年は様子見になるとみる。テレワークの浸透で、事務所や住宅のニーズに変化が予想される。海外事業も厳しい見方だ。

人の移動が制限され、商談が進まず作業員の確保も難しくなっている。

一方、近年多発する大規模災害に対する強靱(きょうじん)化対策で、官公庁発注の公共事業は、例年並みを維持する見通しだ。

化学 車回復―継続に期待

国内の石油化学生産は、多様な化学品の出発点であるエチレンプラントの平均稼働率が90%超の高水準となっている。用途が幅広いため需要は底堅く、自動車生産などの回復が順調に進めば、素材産業も下期に回復が進む期待がある。

エチレンプラントの平均稼働率は高水準(昭和電工大分コンビナート)

国内出荷は前年を下回ったままで新型コロナ感染状況も注視する必要があるが、足元の市況も一時期より持ち直した。一方、米政府による華為技術(ファーウェイ)への制裁強化が、半導体市場にどう影響するか不安視する声もある。

機能化学は市場が底打ちしたとの見方が強い。自動車販売の復調が背景にあり、5G普及の期待もかかる。一方で米中貿易摩擦による不透明感が続き、関係者は半導体材料などへの影響を懸念する。

化学繊維では、外出自粛によるアパレル分野の需要減が響いている。新型コロナ対策でマスクや防護服の需要は引き続き旺盛だが、全体の落ち込みを補うには至らない見込み。炭素繊維などで、航空機関連の需要の不調も続きそうだ。

エネルギー 電気・石油、回復弱く

新型コロナの収束が見えない中、電力・ガスは下期も一定の需要減が続きそうだ。5月を底にして需要の回復傾向がみられるが、前年同月比でマイナスが続いており、足取りは鈍い。関西電力は21年3月期連結業績予想の経常利益を前期比815億円減少と見込み、このうちコロナ影響額は430億円と試算。下期も一定のコロナ影響を織り込んだ。

特に大都市圏で電力・ガス販売の落ち込みが大きそうだ。さらに新電力などの新規参入業者の伸長が続き、顧客の離脱も止まっていない。また安全対策や定期検査で運転停止する原子力発電所が増えており、収支にマイナスの影響が出そうだ。石油元売りもガソリンを中心に石油製品の販売減少の影響が下期も続きそうだ。ガソリン需要最盛期の8月も盛り上がりを欠いた。石油連盟の杉森務会長は「(新型コロナが収束していない)この状況が続けば、今年度中に需要が戻ることはない」とみる。

小売り 巣ごもり需要、追い風

新型コロナで生まれた「巣ごもり需要」を取り込んだのはスーパーマーケットだ。日本チェーンストア協会がまとめたスーパー全体(既存店)の売上高は、消費増税前の駆け込み需要があった19年9月を除き、19年4月から20年1月までは前年同月割れだった。2月以降は、4月を除き前年比プラスで推移。新型コロナの収束が見えず、今後も外出を控える傾向は続く見通しで、自宅調理用の食材のほか、洗剤やマスクなど生活雑貨の販売が全体の売り上げをけん引するとみられる。

コンビニエンスストアの全体売上高(既存店)は3月以降8月まで前年割れが続いた。在宅勤務の拡大でオフィス立地の店で苦戦したことが大きい。一方、住宅立地店は酒類や冷凍食品などで売り上げを伸ばした。全体として、売上高は回復傾向にあり、客単価は上昇しているが、コンビニが強みとする“ちょっと立ち寄る”利用者が戻っておらず、この層を補う商品施策の強化が課題だ。

日刊工業新聞2020年10月14日

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