炭素繊維複合材で産業利用の裾野拡大へ、サンコロナ小田が挑む素材革命
日本発の素材革命を―。サンコロナ小田の小田外喜夫社長は、高品質で競争力のある素材開発にこだわってきた。その開発精神を象徴するのが、高強度で複雑な形状にプレス成形できる炭素繊維複合材。炭素繊維と熱可塑性樹脂を組み合わせた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のシートで、「Flexcarbon(フレックスカーボン)」と称する。実現の背景にあるのは繊維を薄く分ける「分繊」と、繊維の束を薄く均一に広げる「開繊」の技術。加工性や量産性に優れたこの素材、すでにスポーツ用品やアシストスーツへ採用されている。加工が難しく高価な点が普及の壁となってきた炭素繊維だが、産業利用のすそ野が広がる起爆剤となりそうだ。
加工から製品まで一貫生産
サンコロナ小田は1955年に撚糸メーカーとして創業して以来、分繊・開繊の技術を生かして糸加工から製品までの一貫体制で競争力の高い製品を提供している。テキスタイル分野では、ウエディングドレスなどに用いる極薄手で軽く透けて見える生地「ポリエステル オーガンザ」の世界トップシェア。インテリア分野では製造小売り(SPA)数社と企画段階から協業している。
そんな同社にも新型コロナウイルスの影響は及んでいる。「ファッションは5割減、糸の受託加工は4割減」(小田社長)だが直近の2020年6月期決算は減収ながらも増益を確保。売上高全体の7割を超える主力のインテリア事業でカーテンの販売が好調、利益を大きく押し上げた結果だ。外出自粛に伴い自宅で過ごす時間が増えたことで、インテリアを見直す消費者が増えたことが一因だ。一方で、小田社長は「企画提案を行いながらお客さまのニーズに応える『ダイレクトマーケティング』が奏功した」と分析する。例えばニトリとの間では、昼夜の遮像性と高い紫外線遮蔽性や部屋を明るくする採光性、節電効果のある遮熱機能を兼ね備えたレースカーテン「エコナチュレ」を開発実績がある。
こうしたダイレクトマーケティングを可能にするのは「コンバーターシステム」と称する素材から製品までの一貫生産体制だ。北陸3県を中心に、海外も含め、糸加工・織物・染色・縫製となど工程ごとに協力工場とのサプライチェーンを構築。それぞれ特徴的な技術を保有するどの協力工場に生産を委託するかを「インパナトーレ(原材料の川上・川中と小売業の川下をつないで製品化を図る人材)」という社内人材が決定、効率的に製品化する仕組みである。
他方、同社の競争力の源泉である「分繊」「開繊」工程は、自社内に経営資源を蓄積。地道な基礎研究の積み重ねが炭素繊維複合材など戦略商品の開発につながった。
ランダムシート化で開発加速
その炭素繊維複合材の開発は2003年にさかのぼる。アラミド繊維の開繊技術を、その将来性が有望視される炭素繊維の織物化に応用できるのではないかと業界関係者の助言を受けたことがきっかけだ。その後、開発に成功するも市場開拓につながらず暗礁に乗り上げた時期もある。次の一手を模索する中、出会ったのが金沢工業大学の鵜澤潔教授。「開繊した炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸後にテープしてカット・散布・積層するというランダムシート化の提案を受けた」(小田社長)ことで活路が拓け、開発が大きく前進した。
「フレックスカーボン」を採用した商品の中でも、とりわけ大きな反響を呼んだのがアシックスが開発した“ピンのない”陸上スプリントシューズ「メタスプリント」だ。靴底にフレックスカーボンを使用した「メタスプリント」は、炭素繊維業界で世界最大級の展示会「JECイノベーションアワード2020」のスポーツ&ヘルスケア部門で、アシックスと共同で最優秀賞を受賞。「フレックスカーボン」は画期的な炭素繊維複合材であることを内外に広く示す結果となった。
目下、注力するのは大和ハウス工業、アルケリス(横浜市金沢区)と協力して労働負荷軽減用アシストスーツ「アルケリスFX」に同素材を採用し、軽量化を進めるプロジェクト。実用化が進み、すでに大和ハウス工業は同スーツを全国9工場に導入。主に溶接作業における立ち姿勢の維持や腰の曲げ伸ばし時に動かす脊柱起立筋の活動量を最大3割軽減できるという。2021年1月には一般販売にも乗り出す。
2021年には石川県小松市に約5億円を投じて建設中のプラントが稼働予定だ。「フレックスカーボン」の生産を年間30トン規模からスタートし、量産化技術の確立を急ぐ構えだ。「コンバーターシステム」や「ダイレクトマーケティング」に象徴される独自の経営手法と相まって、同社が目指す「素材革命」がまたひとつ社会を変えようとしている。
【企業概要】▽小松本店=石川県小松市木場町力81▽社長=小田外喜夫氏▽創業=1955年▽グループ売上高=182億円(2020年6月期)