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ゼネコンが廃校を研修施設に。「面影を残して良かった」理由

ゼネコンが廃校を研修施設に。「面影を残して良かった」理由

ヘルメットなどが装飾となったバー。天井や窓枠に学校の面影が残る

ベッドが並んだカプセルホテルのような空間、カウンターでお酒を楽しめるバー―。前田建設工業が茨城県取手市で運営する研修施設だが、もともとは小学校だった。ベンチャーや大学関係者が、人材育成やオープンイノベーションの場として“元・学び舎”を活用している。取手市も全国で増えている廃校利用の先行事例として期待する。

東京・上野から電車を乗り継いで1時間、取手市内に廃校を改修した施設がある。校名が書かれた門や校舎の外観、塗装がはげた階段の手すりは2016年3月の閉校時のままだ。

“元教室”再生で地域貢献

“元教室”に入ると光景が変わる。黒板の前にテーブルや卓球台があり、後方の間仕切り奥には2段ベッドが並ぶ。教室は研修者の寝室として再生された。集合研修ができる部屋には絵の具や習字道具の洗い場も残っており、新鮮さと懐かしさが同居する。バーは最上階にあり、磨かれたグラスが並び、飲料水を注ぐサーバーも置かれている。ヘルメットや誘導灯が装飾となっているのは、建設会社が改修したからだ。

前田建設が市内で研究施設の建設を計画したことがきっかけだった。取手市から隣接する小学校の活用を提案され、改修を決めた。研究施設は「ICIラボ」として19年2月に開業。続いて小学校が「ICIキャンプ」として19年11月に開所した。ラボは実験設備を備えており、他社との連携拠点となっている。キャンプは宿泊ができる研修施設で、ベンチャーが人材育成やチームワークの強化、アイデアの検討に使う。現在はコロナ感染対策として宿泊は見合わせている。

教室を改修し、ベッドを並べて寝室に

前田建設はオープンイノベーションの創出を狙い、ラボとキャンプを開設した。同社は建築・土木を本業としてきたが、空港や有料道路の運用事業にも進出。施設運用には社会課題を解決するサービスの充実が必要となり、他社との連携によるオープンイノベーションを志向した。

同社ICI総合センターインキュベーションセンターの岩坂照之センター長は「学校の面影を残して良かった」と語る。小学校時代の記憶は誰にも共通しており「社会人も童心に帰り、喜んでもらえる」と実感する。都内にも起業家の交流拠点はあるが、“元・学校”での合宿は「非日常体験」でありながら、学びの原体験が呼び起こされ、創造性が高まると好評という。市内にある東京芸術大学も連携し、オープンイノベーションの胎動が起きている。

教室を使った打ち合わせスペース

行政にもメリットがある。取手市政策推進部の中川勇紀さんは「学校は他の公共施設と違って市民の思い出が残る場。学校の形で利活用してもらえてありがたい」と語る。さらに「廃校を活用した先進事例になる」と期待する。

文部科学省によると18年5月時点の全国の廃校は6580校。そのうち1295校は活用法が決まっていない。同省は企業のオフィスや工場に転用した事例を紹介するパンフレットを作成し、活用を呼びかけている。市民の思い出がつまった校舎の再生は、企業による地域貢献となる。

日刊工業新聞2020年10月2日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
2日付「SDGs面」から。ICIキャンプに入ると、自分の母校でもないのに懐かしくなりました。体育館のニオイって記憶にありませんか?あのニオイもあり、タイムスリップ感覚でした。オフィス、野菜工場、養殖、スポーツクラブなど、いろいろと各地の廃校が活用されているそうです。

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