中小企業を支え切れるか?コロナ禍の再編・成長路線を推進する菅政権
中小企業の生産性を向上させ、足腰を強くする仕組みを検討すること―。菅義偉首相が梶山弘志経済産業相にそう指示し、国の中小企業政策はさらなる再編・成長路線を推進する方向だ。だが、新型コロナウイルス感染症の影響で経済は低迷。足元では、資金繰り支援の着実な実行など中小企業の雇用や事業の維持が緊急の課題となっている。ウィズコロナ・アフターコロナを見据え、目下の“止血”にとどまらない対策も求められる。
新型コロナ対策の目玉となっているのが、持続化給付金・家賃支援給付金の現金給付事業だ。梶山経産相は、現金給付という「今までにない政策を打った」と強調する。
持続化給付金は、売上高が大きく減少した事業者を対象に最大200万円を給付する。5月1日に申請受け付けを開始した。不透明な管理体制や不正受給の問題が起こるなど順風満帆とは言えない状況だが、9月14日時点の申請数は約357万件。良くも悪くも事業者には知れ渡ることとなった格好で、同日時点で約4兆3000億円(約332万件)を給付した。
家賃支援給付金も売上高が減少した事業者を支援するため、家賃や地代を対象に最大600万円を給付する。7月14日に申請受け付けを始め、9月15日時点の申請数は約48万件に上る。「賃貸借の契約書は多種多様にわたり、オンライン上の不備も多い」(中小企業庁)といい、審査に時間がかかっている。同日時点の給付は約1150億円(約13万6000件)と、申請数の4分の1程度にとどまる。現状5000人程度の審査体制を10月には6000人とすることで、審査の迅速化を図る。同給付金は家賃という名称が先行しており、「駐車場や資材置き場にも使えるとは知らなかった」(中小企業経営者)などの声も挙がっている。
両給付金の申請締め切りは2021年1月15日となっている。給付金や資金繰り支援は兆単位で予算措置しており、財務省によると20年8月末時点の当初予算と補正予算を含めた中小企業対策費は、約23兆4877億円に上る。18年度など例年の30倍超の予算額で、リーマン・ショック後の09年度の約3兆円、東日本大震災のあった11年度の約2兆5000億円をはるかに上回る。
予算措置のほか、新型コロナにより立場の弱い中小企業に取引条件などのしわ寄せが向かうことを懸念してコロナ禍でも進めたのが、「パートナーシップ構築宣言」の導入だ。政府が20年度下期の取引条件が固まる8月に向け策定を目指していたが、9月17日時点の賛同企業は420社。
パートナーシップ構築宣言は、大企業と中小企業の共存共栄の関係を目指し、企業の代表者名で宣言する。ひな型を元に各社が宣言を作成し、「下請代金は現金で払う。手形は発行しない」「20日締め、翌月10日に現金振り込み」と明記する企業も出ている。宣言を行った企業への優遇策として「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ビジネスモデル構築型)」の加点措置を受けられるようにした。中小企業庁は引き続き宣言を促していく。
また、新型コロナはデジタル化の遅れを浮き彫りにした。経済産業省はITツールの導入を最大450万円で補助する「IT導入補助金」を用意。これに加えて、9月には専門家がIT化を支援する「中小企業デジタル化応援隊事業」が始まった。
中小企業への直接補助ではなく、事務局がIT専門家に対して1時間当たり最大3500円(消費税込み)の謝金を支払う制度だ。中小企業の実費負担は1時間当たり最小500円(同)で済む。複数回の利用も可能で、簡便な手続きでIT化の第一歩を進められそうだ。