戦後最悪のGDP…「中小企業の街」東京・大田区、東大阪に見る危機の乗り越え方
4―6月期の国内総生産(GDP)が戦後最悪を記録するなど、新型コロナウイルス感染拡大が日本経済に大きな影を落とす。その影響は、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中小企業にとってはより深刻。存続の危機に立つ企業も少なくない。日本企業の99・7%を占める中小企業はこの危機にどう立ち向かうのか。わが国のモノづくりを支える中小企業の町、東京・大田区と大阪の東大阪市の現状を見た。
若手育成・研究開発に集中
東京都大田区の「町工場」を、コロナ不況の暴風が襲っている。同区に本部を置くさわやか信用金庫の景況調査では、2020年4―6月期の業況DIはマイナス45・9で過去最大級の悪化。もともと後継者不足だったこともあり廃業を選択する企業が増えている。だが不況をむしろ奇貨と捉え、社内体制や事業構造の変革に挑戦する企業もある。暴風に折れない、しなやかな強さを発揮している。
機械部品製造のエステー精工では期せずして世代交代に取り組むことになった。新型コロナ感染の不安から、これまで現場を支えてきた80代のベテラン職人が退職。新規の仕事に取り組むには経験が足りない若手の技能を引き上げようと、国の「ものづくりマイスター制度」を利用するなど社外の力も活用して人材育成を強化。結果として円滑な世代交代につなげている。佐川澄子専務は「会社の存続のため、若手個人のレベルをさらに向上する」と意気込む。
工具・工作機械商社のコトブキは、コロナ禍で客先へ訪問できない状況に対応するため対話型アプリケーション(応用ソフト)「LINE」を活用し、工作機械の修理サポートをリモート化した。感染リスクを抑えつつ業務を効率化している。
厳しい環境の中、町工場の研究開発は活発化。区の新製品・新技術開発支援の助成には、前年度比2倍以上の応募があった。松原忠義大田区長は「仕事が減って時間ができたことが、各社の創造性を発揮させた」と分析。とはいえ全体感としては、やはり地域経済は弱含んでいる。大田工業連合会の舟久保利明会長は「大田区では廃業やM&A(合併・買収)がさらに増加しそう」とため息をつく。
城南信用金庫の川本恭治理事長は「補助金で資金問題が一段落している今こそ、本業支援が必要だ」と話す。
約6000もの事業所が集積する大阪府東大阪市。東大阪商工会議所の景気動向調査によると、6月の業況DIは製造業がマイナス72と4月比で8ポイント悪化した。小売業は緊急事態宣言解除や公的な消費喚起策で悪化幅が縮小したものの、新型コロナで深まる消費の不振は、モノの生産に大きく広がり始めている。
東大阪の中小製造業は後継者不足や、廃業後の跡地にマンションが建設される住工混在問題などから、これまでも減少傾向が続いていた。そこに今回のコロナ禍が加わった。東大阪商工会議所の嶋田亘会頭は「これまでになく厳しい。零細企業の廃業がさらに増えないか心配している」と、懸念を強める。
5月に生産がほぼストップした自動車の部品関連業種は回復に転じたものの9月の時点でもまだ前年同月比マイナス20―40%にとどまる見通し。6月ごろまでは受注残を確保していた設備関連業種も、とうとう取引先からの新たな発注が止まった。「家庭用空調機のパワー半導体用放熱基板が落ち込み、全社で前年比20%減産が続く。先がみえない」。電子基板や金属・樹脂の精密打ち抜き加工部品を手がけるサンコー技研の田中敬専務はこう嘆息する。
東大阪の中小製造業は企業城下町とは異なり特定の大企業に依存せず、これまでも不況を乗り切ってきた。近畿大学理工学部の西藪和明教授は「モノづくりが何でもそろい、コストや納期でも競争力があるから仕事が回ってくる。多くは大手に頼らなくてもやっていける」と強みを説明する。ただ顧客開拓や設備・IT投資が進んでないとの指摘もある。
コロナ不況で事業承継やM&Aが増えることで、経営体制の転換につながる可能性もある。モノづくりを支える中小企業の町には、これまでにない荒波が押し寄せている。