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「サプライヤーを見殺しにはできない」...自動車業界はどこまで団結できるのか

動き出す「助け合いプログラム」
「サプライヤーを見殺しにはできない」...自動車業界はどこまで団結できるのか

リーダーシップを発揮する自工会の豊田会長(トヨタ自動車社長)

日本の自動車産業の製造品出荷額等は約62兆円(2018年)にのぼり、製造業合計の2割程度を占める。完成車、部品ともに業界で世界の首位企業を擁し、優位性も高い。しかし、その足元は将来にわたり盤石であるといえるだろうか。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)で自動車のあり方が変わり、コロナ禍がサプライヤーの裾野企業を揺さぶる。そんな中、自動車が日本の戦略産業であり続けるために業界を挙げた動きが始まった。

本当に頑張っている人を見殺しにはできない―。日本自動車工業会(自工会)、日本自動車部品工業会(部工会)、日本自動車車体工業会(車工会)、日本自動車機械器具工業会(自機工)の4団体が9日開いた首脳会合。この日、初めて顔合わせした4人は、こんな思いを共有した。

自動車関連4団体が会員企業への資金調達支援に動く。業界団体はもともと、業界全体の利益を追求する活動が中心。しかし今回はより踏み込み、会員企業への資金調達支援を行う。

この「助け合いプログラム」の1件当たり上限1億円の信用保証は、決して大きな額ではない。しかし、自工会が金融機関に預け入れる預金を担保に信用保証することで、取引銀行から迅速に融資を受けられる。融資にあたっては、財務諸表に表れない技術力や技能、現場力を自工会などの「目利き力」で評価する。政府の資金支援プログラムと合わせて自動車産業に必要な企業を支援する。

日本の自動車部品メーカーは生産性や技術力、技能の向上を推し進め、競争力を支えてきた。しかし、グローバル展開に伴う地政学・感染症リスクや、CASEへの対応、事業承継などで、中堅・中小企業の存続へのハードルは、一段と高くなっている。コロナ禍でこうした問題が一気に顕在化した。

尾堂真一部工会会長は「価格競争力を維持してきた原価低減に限界がきている」と現状を分析した上で「国際競争に勝つためにデジタル変革(DX)を議論しなければ」と言い切る。4団体は資金調達支援にとどまらず、企業の経営品質向上や、CASEに備えた技術マッチングなどでのサポートも見据えている。

米中貿易摩擦や大規模災害、コロナ禍と、経済は不確定要素に満ちている。だからこそ「元気を出して前を向いていこうというメッセージが必要だ」と豊田章男自工会会長は言う。その言葉にはリーマン・ショックから10年かけて企業体質を強くしたトヨタ自動車社長としての手応えと、自工会会長としての責任感がにじむ。

950万人の雇用はどうなる?

「自動車産業は大変厳しい状況だ。中小部品メーカーを含め裾野が広い。金融支援など対策を総動員して資金繰りを支えていく」。菅義偉官房長官は5月の記者会見で新型コロナウイルス感染拡大の影響で自動車メーカーの業績が悪化していることに懸念を示した。

3万点もの部品からなる自動車は日本経済の屋台骨だ。経済産業省の産業別統計表によれば、2018年の「製造品出荷額等」は約62兆円で製造業合計の約2割を占める。東京商工リサーチの国内取引状況調査では、主要乗用車メーカー7社の1次、2次の取引先総数は約2万7000社、従業員数は約950万人にのぼる。

こうしたモノづくりの基盤や雇用を支えてきたのは、1000万台規模の国内自動車生産だ。日本の自動車メーカーは1990年代からグローバル戦略を推進して世界生産を拡大。この間各社は海外の現地生産を増やしつつ、国内生産は1000万台をおおむね維持してきた。しかし足元のパンデミック(世界的大流行)で国内の盤石な基盤もほころびが出始めている。5月の乗用車メーカー8社合計の世界生産台数は前年同月比6割の大幅減。約半分を輸出に依存する国内生産も同様の下げ幅だった。

日銀が7月にまとめたさくらリポートでは「世界の完成車工場の操業が停止したことで自動車部品の輸出は大幅に減少した」(広島の自動車関連業者)、「自動車部品の需要急減を受け一部製造ラインを停止していることに対応し派遣社員の契約更新を取りやめて数十人規模の人員削減を図っている」(札幌の輸送用機械業者)と苦境の声が目立つ。帝国データバンクによると自動車部品関連の倒産は4月以降で3件。サンデンホールディングスは私的整理の一種「事業再生ADR」を申請した。自動車減産が裾野に影を落とす。

「画期的な取り組みで(大企業と中小企業の)パートナーシップ精神に合ったものだ」。日本自動車工業会などが立ち上げた「助け合いプログラム」に、日本商工会議所の三村明夫会頭は期待する。日商は内閣府や中小企業庁などと「パートナーシップ構築宣言」という仕組みをつくり、大企業と中小の新たな共存共栄関係構築を目指す。三村会頭は「かつて大企業と中小の関係は良好で日本経済の強さだったがバブル崩壊以降変わってしまった。サプライチェーン全体が強くならないといけない」という。

コロナを奇貨にサプライチェーンの強化につなげられるか。日本の自動車産業が試されている。


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