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宇宙デブリの「破局的衝突」を阻止せよ!JAXAの挑戦は日本企業の除去ビジネスにつながるか

宇宙デブリの「破局的衝突」を阻止せよ!JAXAの挑戦は日本企業の除去ビジネスにつながるか

22年度打ち上げ予定のデブリ除去キー技術実証衛星イメージ(アストロスケール提供)

【衝突の連鎖】

ライフルの弾は秒速1キロメートル程度という。では、マイクロバスが秒速10キロメートルで飛んできて衝突したらどうなるだろうか? 自動車事故の話をしているのではない。スペースデブリの話である。

スペースデブリは人類が宇宙に飛ばしたロケットや衛星の残骸、「宇宙ゴミ」である。今後の増加が予見されており、将来の宇宙利用の脅威となりつつある。その増加メカニズムは「衝突の連鎖」だ。

スペースデブリの衝突速度は秒速十数キロメートル。数トンの大型デブリが衝突すると「爆散」し、細かい多量のデブリの雲を軌道上に撒き散らす。すると宇宙空間のデブリ密度が増し、衝突の確率がさらに上がり、次の衝突が起きる。その繰り返しである。

【源を断つ】

この予見される新たな環境問題をどう解決するか。衝突後に軌道上に四散した細かい多量のデブリを一つずつ処理するのは困難である。それより「源を断つアプローチ」が現実的だ。

幸い、「将来多量のデブリを撒き散らす確率の高い大型の軌道上デブリ」は識別されており、その数は限定的である。それらを軌道上から除去すれば、将来の衝突連鎖発生の確率を、十分に下げることができる。

しかしスペースデブリは通信や姿勢制御ができず、捕獲用インターフェースもない。除去する側からみて「非協力的なターゲット」である。これに接近して近傍制御を行うことは、既に技術が確立している「協力的な」宇宙機同士のランデブー・ドッキングに比べ、技術的にはるかに困難だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、スペースデブリ除去を新しい宇宙ビジネスとして開くことを目的に、「商業デブリ除去実証プロジェクト」を開始した。大型デブリ除去技術を世界で初めて実証し、日本企業のデブリ除去ビジネスにつなげることを目指す試みである。

【近距離撮影】

この第1段階として、JAXAはデブリ除去ビジネスの実現を目指す「アストロスケール」と協力し、キー技術の実証を行う衛星を2022年度に打ち上げる。この衛星では、非協力的なターゲットへの接近・近傍制御に必要な航法誘導制御技術を確立し、デブリの状況が分かるカラー映像の取得を行う予定だ。

軌道上に長期間放置された大型デブリはどのような状況にあるのか。それを近距離で撮影した映像が公開される初めての機会でもある。ぜひその成果にご期待頂きたい。

地球低軌道上のスペースデブリ(NASA ODPO 提供)
◇研究開発部門商業デブリ除去実証チーム 山元透
01年入社。03年よりJAXAで宇宙機の航法誘導制御技術の研究開発に従事。07年ドイツ航空宇宙センター客員研究員。現在はJAXA研究開発部門で専門技術リーダー(軌道・航法・誘導・制御技術)と商業デブリ除去実証チーム長を兼務。
日刊工業新聞2020年9月21日

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