海洋と宇宙で、日本の技術が“ゴミ掃除”に役立つ日
スペースデブリと海洋ゴミの片付け方とは?
人が生活していればさまざまなゴミが出る。ゴミを片付けるのは人間の仕事だ。今では活動の場が宇宙にまで広がり、海や宇宙にまでゴミをまき散らしている。だがこれらのゴミを処理するには技術的な課題が多く、見通しは立っていない。プラスチックの破片などで海洋汚染の元になるマリンデブリ(海洋ゴミ)と、衛星やロケットの残骸で宇宙開発の妨げとなるスペースデブリ(宇宙ゴミ)の“片付け術”を探った。(取材・冨井哲雄)
「魚を買います。プラスチックの袋に入れて」「すでに魚のおなかに(プラスチックが)入っているよ」―。そんな衝撃的な会話が客とスーパーの店員とで交わされる日が来るかもしれない。海洋研究開発機構海洋生物環境影響研究センターの藤倉克則センター長は「2050年には海を漂うプラスチックゴミが魚の量を上回るとの試算がある」と強調する。
海洋プラスチックは世界の海に広がり、生態系への影響が懸念されている。海洋機構の中嶋亮太研究員は「世界のプラスチックの総生産量は16年時点で3億3500万トン以上。これはスカイツリー8170個の重量に相当する」と強調する。海洋プラスチックゴミは年々蓄積し地球の海に広がっていると見られている。
6月に大阪市で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、日本は海洋プラスチックゴミによる新たな汚染を50年までにゼロにするビジョンを取りまとめた。
こうしたビジョンの実現のため海洋科学者らは取り組みを加速させる。海洋機構では画像処理技術と人工知能(AI)を組み合わせ、プラスチックゴミを判別する研究に着手している。また5ミリメートル以下のゴミはマイクロプラスチック(MP)と呼ばれ、海洋汚染物質として問題になっている。九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授は、日本の周辺の海に船を派遣し浮遊するMPを調査、MPの海での浮遊量を予測する研究を行っている。
研究者以外の取り組みも進む。日本とパラオは親善ヨットレースを12月に実施予定。横浜港からパラオ・コロール島までの約3000キロメートルのレース中、海に浮遊するMPを採取する。地球環境の実態把握につなげることで、海洋ゴミの減少に貢献できるかもしれない。
海洋ゴミのように宇宙ゴミを一般の人が直接見る機会はない。だが衛星の故障などにつながる宇宙ゴミを放置すれば、全地球測位システム(GPS)や気象衛星などに頼る我々の生活に影響が出る可能性はある。
世界では複数の衛星を打ち上げ連携し運用する「衛星コンステレーション」と呼ばれる取り組みが広がりつつある。国内では宇宙ベンチャーであるアクセルスペース(東京都中央区)が22年までに超小型衛星の50機体制の構築を目指す。多くの人工衛星が地球を回ることになれば、運用を終えた衛星や打ち上げに利用したロケットなどのゴミを片付ける必要が出てくる。
こうした宇宙開発の動きに清掃ビジネスを展開するのが、宇宙ゴミ除去ビジネスの宇宙ベンチャーであるアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)だ。同社は20年にも宇宙ゴミ除去実証衛星「エルサディー」の打ち上げを目指す。軌道上に打ち上げる衛星は捕獲機となる「チェイサー」と宇宙ゴミを模擬した「ターゲット」から成る。高度550キロメートルの軌道でターゲットを分離。軌道上でチェイサーがターゲットに向け飛行し接近する技術を実証する。
政府の宇宙開発戦略本部(本部長=安倍晋三首相)は6月、国の宇宙開発計画実施方針である「宇宙基本計画工程表」の改訂に向けた重点事項を決定。宇宙ゴミ除去技術の開発の推進を盛り込んだ。
宇宙ゴミの処理をエンターテインメントにするという構想もある。人工流れ星を作る宇宙ベンチャーのALE(エール、東京都港区)は20年春以降に地球周回軌道上にある超小型衛星から金属を含む粒を放出し、人工流れ星を創出する。金属粒を大気圏に突入させ燃やすことで人工流れ星を発生させる。岡島礼奈エール社長は「役目を終えた衛星を地球の大気圏に落とし流れ星にできれば、宇宙ゴミの対策にもつながるかもしれない」と強調する。
日本発となる宇宙のビジネスが他の宇宙開発を進めるエンジンとなるかもしれない。
衛星やロケットの小型化・低価格化が進むことで打ち上げ機会が増えるとともに、衛星やロケットの残骸が宇宙ゴミとなって地球の周囲に増加し宇宙開発を妨げている。国際宇宙ステーション(ISS)付近にある宇宙ゴミは地球の周りを秒速7キロ―8キロメートルで回り、他の衛星にぶつかることで衛星の故障の原因となる可能性がある。
地上から追跡できる宇宙ゴミは10センチメートル以上で2万個、1センチメートル以上で50万―70万個、1ミリメートル以上で1億個を超えるとされている。高度400キロメートルにあるISSを含む高度2000キロメートル以下の低軌道、通信衛星や気象衛星などが回る高度3万6000キロメートル、米国の全地球測位システム(GPS)衛星が使う高度2万キロメートルなどの軌道に多くの人工衛星があり、宇宙ゴミが散乱している。
宇宙空間を飛ぶ物体では運用中の人工衛星6%を除く94%が宇宙ゴミとされている。内訳として最も多いのが、衛星やロケットの残骸同士がぶつかってできる破砕物で全体の6割弱。現状での宇宙ゴミ対策は、宇宙ゴミの予測進路に対し人工衛星やISSの軌道を変更し衝突を避けるか、1センチメートル以下の宇宙ゴミの衝突に耐えられるシールドを設置することで対応している。
海洋プラ、地球環境把握して削減
「魚を買います。プラスチックの袋に入れて」「すでに魚のおなかに(プラスチックが)入っているよ」―。そんな衝撃的な会話が客とスーパーの店員とで交わされる日が来るかもしれない。海洋研究開発機構海洋生物環境影響研究センターの藤倉克則センター長は「2050年には海を漂うプラスチックゴミが魚の量を上回るとの試算がある」と強調する。
海洋プラスチックは世界の海に広がり、生態系への影響が懸念されている。海洋機構の中嶋亮太研究員は「世界のプラスチックの総生産量は16年時点で3億3500万トン以上。これはスカイツリー8170個の重量に相当する」と強調する。海洋プラスチックゴミは年々蓄積し地球の海に広がっていると見られている。
6月に大阪市で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で、日本は海洋プラスチックゴミによる新たな汚染を50年までにゼロにするビジョンを取りまとめた。
こうしたビジョンの実現のため海洋科学者らは取り組みを加速させる。海洋機構では画像処理技術と人工知能(AI)を組み合わせ、プラスチックゴミを判別する研究に着手している。また5ミリメートル以下のゴミはマイクロプラスチック(MP)と呼ばれ、海洋汚染物質として問題になっている。九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授は、日本の周辺の海に船を派遣し浮遊するMPを調査、MPの海での浮遊量を予測する研究を行っている。
研究者以外の取り組みも進む。日本とパラオは親善ヨットレースを12月に実施予定。横浜港からパラオ・コロール島までの約3000キロメートルのレース中、海に浮遊するMPを採取する。地球環境の実態把握につなげることで、海洋ゴミの減少に貢献できるかもしれない。
衛星で清掃ビジネス 処理方法をエンタメ化
海洋ゴミのように宇宙ゴミを一般の人が直接見る機会はない。だが衛星の故障などにつながる宇宙ゴミを放置すれば、全地球測位システム(GPS)や気象衛星などに頼る我々の生活に影響が出る可能性はある。
世界では複数の衛星を打ち上げ連携し運用する「衛星コンステレーション」と呼ばれる取り組みが広がりつつある。国内では宇宙ベンチャーであるアクセルスペース(東京都中央区)が22年までに超小型衛星の50機体制の構築を目指す。多くの人工衛星が地球を回ることになれば、運用を終えた衛星や打ち上げに利用したロケットなどのゴミを片付ける必要が出てくる。
こうした宇宙開発の動きに清掃ビジネスを展開するのが、宇宙ゴミ除去ビジネスの宇宙ベンチャーであるアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)だ。同社は20年にも宇宙ゴミ除去実証衛星「エルサディー」の打ち上げを目指す。軌道上に打ち上げる衛星は捕獲機となる「チェイサー」と宇宙ゴミを模擬した「ターゲット」から成る。高度550キロメートルの軌道でターゲットを分離。軌道上でチェイサーがターゲットに向け飛行し接近する技術を実証する。
政府の宇宙開発戦略本部(本部長=安倍晋三首相)は6月、国の宇宙開発計画実施方針である「宇宙基本計画工程表」の改訂に向けた重点事項を決定。宇宙ゴミ除去技術の開発の推進を盛り込んだ。
宇宙ゴミの処理をエンターテインメントにするという構想もある。人工流れ星を作る宇宙ベンチャーのALE(エール、東京都港区)は20年春以降に地球周回軌道上にある超小型衛星から金属を含む粒を放出し、人工流れ星を創出する。金属粒を大気圏に突入させ燃やすことで人工流れ星を発生させる。岡島礼奈エール社長は「役目を終えた衛星を地球の大気圏に落とし流れ星にできれば、宇宙ゴミの対策にもつながるかもしれない」と強調する。
日本発となる宇宙のビジネスが他の宇宙開発を進めるエンジンとなるかもしれない。
宇宙空間の物体、デブリが94%
衛星やロケットの小型化・低価格化が進むことで打ち上げ機会が増えるとともに、衛星やロケットの残骸が宇宙ゴミとなって地球の周囲に増加し宇宙開発を妨げている。国際宇宙ステーション(ISS)付近にある宇宙ゴミは地球の周りを秒速7キロ―8キロメートルで回り、他の衛星にぶつかることで衛星の故障の原因となる可能性がある。
地上から追跡できる宇宙ゴミは10センチメートル以上で2万個、1センチメートル以上で50万―70万個、1ミリメートル以上で1億個を超えるとされている。高度400キロメートルにあるISSを含む高度2000キロメートル以下の低軌道、通信衛星や気象衛星などが回る高度3万6000キロメートル、米国の全地球測位システム(GPS)衛星が使う高度2万キロメートルなどの軌道に多くの人工衛星があり、宇宙ゴミが散乱している。
宇宙空間を飛ぶ物体では運用中の人工衛星6%を除く94%が宇宙ゴミとされている。内訳として最も多いのが、衛星やロケットの残骸同士がぶつかってできる破砕物で全体の6割弱。現状での宇宙ゴミ対策は、宇宙ゴミの予測進路に対し人工衛星やISSの軌道を変更し衝突を避けるか、1センチメートル以下の宇宙ゴミの衝突に耐えられるシールドを設置することで対応している。
マイクロプラスチックとは
海洋汚染の原因となる5ミリメートル以下の微小ゴミ。プラスチックの容器やレジ袋などが海に流れ、紫外線(UV)や熱による分解、摩耗などで生成する。またビーズ状の形態で作られ捨てられたものもある。有害物質を吸着することも指摘されており、汚染されたマイクロプラスチック(MP)は魚などの体内に蓄積されるため、生態系への悪影響が心配されている。小さいため回収はほぼ不可能。世界では5兆個以上のMPが世界の海を漂っているとされる。プラスチックの総排出量に比べ、海に漂っているMPは極端に少なく、「行方不明のプラスチック」と言われている。
日刊工業新聞2019年8月12日(科学技術・大学)