30年の目標は?50年のビジョンは?日本製鉄のCO2ゼロ行程表
日本製鉄は二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロとする「ゼロカーボン」の実現へ、2030年の目標と50年のビジョンを20年度中に策定する。CO2低減、エネルギー効率の改善などの取り組みや技術開発の道筋を示す。鉄鋼業界は製鉄工程でのCO2排出を2100年までにゼロとする方針を打ち出した。企業が個別に行程表を示すことで、官民による超革新的技術開発の機運を高める狙いもありそうだ。(編集委員・山中久仁昭)
高炉法で減らす
日本製鉄は今春、社内に「ゼロカーボン・スチール委員会」を設け、CO2削減の中長期の目標などの検討作業に入った。橋本英二社長は「CO2を(日本製鉄など鉄鋼3社が採用する)高炉法でどう減らしていくかが大事」との認識を示している。
30年の目標と50年に向けたビジョンは、CO2の低減、分離・回収、リサイクル、固定化など全般をカバーする見通し。粗鋼・鋼材づくりの「プロセス」、高機能鋼材など「プロダクト」、省エネ技術の移転普及といった「ソリューション」、「革新的技術開発」など各面で検討を行う。
鉄鋼他社も具体的な目標やビジョンづくりを迫られそうだ。JFEホールディングス(HD)は環境理念・方針、環境に関する重要業績評価指標(KPI)などを設定。社内の「グループ環境委員会」が達成状況などを管理する。神戸製鋼所はCSR委員会に「CO2削減推進部会」を設けて、CO2削減への方策を検討している。
長丁場の計画
日本鉄鋼連盟は18年に、長期温暖化対策ビジョン「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」を策定した。一方、鉄鋼3社は高炉による水素還元製鉄技術開発の国家プロジェクト「コース50」を推進中。30年をめどにCO2排出が少ない技術を確立し、50年までに実用化を目指している。鉄鉱石の還元剤となる水素系ガスを高炉に吹き込む手法の最適化などを研究する。長丁場の計画だが、環境問題の深刻化を受け開発をより加速させる必要もある。
国の動き注視
温暖化対策はエネルギー基本計画、長期需要見通しと密接不可分で、鉄鋼業界は国の動きに注視する。経済産業省と環境省は1日の合同会議で、地球温暖化対策計画などの見直しに関する議論を始めた。日本製鉄の橋本社長は、近く発足するポスト安倍政権に「エネルギー問題できちんとした方向性を出してほしい」と期待する。技術開発など支援策の強化を政府に要請する以上、自らに厳しい実行計画を課す構えで、他社が歩調を合わせるかが注目される。