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ホンダ初の量産型EV、航続距離を“伸ばさない戦略”の勝算

ホンダ初の量産型EV、航続距離を“伸ばさない戦略”の勝算

「ホンダe」は専用の車台を開発して小回りが利く直感的な操作と、力強く安定した走りを実現した

ホンダは27日、同社初の量産型電気自動車(EV)「ホンダe」を10月30日に国内で発売すると発表した。街中での乗りやすさを追求し、満充電での航続距離を最大283キロメートルに留め、運転性能を高めた。消費税込みの価格は451万円から。販売目標は年1000台。最新の通信技術を盛り込み、量販より先進性を示す象徴の車として訴求する。(西沢亮)

「EVがいきる“街中ベスト”の車を目指した」。ホンダe開発責任者の一瀬智史氏は開発の狙いをこう指摘する。入り組んだ狭い道があり、移動距離が短い市街地などでの走行を想定する。

車体の大型化にもつながる電池容量は、必要な航続距離を割り出して35・5キロワット時とした。取り回しの良さも追求して後輪駆動(RR)の小型EV専用車台を開発。電池を車両床に平らに配置し、前後の重量配分を均等に設計した。同社ハイブリッド車(HV)にも搭載する最大トルク315ニュートンメートルのモーターを後部に配置するなどし、最小回転半径4・3メートルを達成。同社軽自動車よりも小回りが利く直感的な操作と、力強く安定した走りを実現した。

各社はEVの航続距離を少しでも伸ばそうとしのぎを削ってきた。ただホンダによると車の移動距離は1日90キロメートルの利用者が約9割を占めるという。一瀬氏は「航続距離500キロメートルのEVでは90キロメートル走るために残りの400キロメートル相当分の電池を安心のためだけに持っている」と指摘する。ホンダeでは日常的な利用に余裕を持たせた航続距離を選択。30分の急速充電で202キロメートル走行できる急速充電性能の高い電池をパナソニックと共同開発して利便性を高めた。

一方、ホンダeの開発で最も優先順位が高かったのが、2020年から欧州で開始された二酸化炭素(CO2)排出規制強化への対応だ。規制を達成できなければ、平均のCO2排出量が規制値を1グラム上回るごとに罰金を欧州での総販売台数分支払わなければならない。21年にはさらに規制が厳格化される予定で、各社はEVなど電動車の投入を急ぐ。

欧州の市街地では狭い石畳の道もあり小型車の需要が高い。ホンダはCO2排出量の多い都市部から環境問題に取りみたいとの判断もあり、小型EVの開発に的を絞った。

英調査会社のLMCオートモーティブによると、19年のEVの世界販売台数は前年比25%増の約167万台。欧州は同81%増の約36万台で、今後は規制の強化もあり市場の拡大が見込まれる。小型EVでは日産自動車や欧州メーカーが、300キロメートルを超える航続距離やRR車など多彩な仕様の商品を投入する。ホンダeは8月から欧州で販売を始めており、日本を大幅に上回る年1万台の販売目標を掲げる。

SBI証券の遠藤功治企業調査部長は販売実績などをもとに、ホンダの欧州でのCO2排出規制に対する罰金額を年300億円超と推定する。19年度の欧州の販売台数は約13万台。そのうちCO2を排出しないホンダeを1万台販売できれば、「罰金額を大幅に減らせるという意味で業績にはプラスになる」と評価する。

日刊工業新聞2020年8月28日

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