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中国メーカーとの設計トラブル発生!日本人設計者が今すぐすべきこととは?

機械設計2020年9月号連載 不良品トラブルをなくす中国部品メーカーのトリセツ
日本人設計者が中国メーカーに製造を依頼したときに発生しがちなトラブルの原因として、①中国人の国民性と,その国民性による仕事の仕方を理解していないこと、②本人の会話やメールなどでの情報の出し方が非常に曖昧であること、③設計者による中国の製造現場の確認が十分になされていないことの3つがあげられるという。本連載では,これら3つが原因となって発生したトラブルに関して,著者の経験に基づく実例をあげ,そこから得られた反省点とそれらの対策を紹介している。

設計者しか知り得ない情報

設計者は部品を設計するだけではない。自分の設計した部品や製品をどのような装置や治具を使って作製するのか,またどのような工程,さらにその工程の中でどのような作業順で作製するかを,判断することも設計者の仕事である。もちろん装置の設定値決めや治具の設計,また工程設計やその作業内容・手順決めは部品メーカーの専門の担当者や製造技術の担当者が行う。

しかしそれらのできたものを最終的に承認するのは部品を依頼したメーカーの設計者の仕事である。装置の設定値や治具の設計,工程表を直接的に承認するわけではないが,部品もしくは製品を最終的に承認するということは,それらを承認したのと同じことである。よって設計者がそれらを自ら確認して内容を知っておくことはとても重要である。

筆者がこのことを強調したい理由は,不良品の発生時にその原因を究明するときや,量産前の製造現場を確認するときには,設計者にしかできないものがあるからである。今回は次の2 つの事例でこのことをお伝えする。

一つは,設計者が意図した部品仕様に則って治具が作製されていなかったため,量産後に不良品が発生した事例。もう一つは,量産が始まってしばらくしたら設計者の意図した部品作製の工程とは違う工程で部品が作製されており,それが悪影響を及ぼして不良品が発生した事例である。両者とも設計者でなければ,なかなか原因を発見するのは難しかったと思われる事例である。

部品のばらつきが製品に隙間を発生させる

液晶テレビの最外径を囲む体裁部品の寸法が,量産が始まってからもなかなか安定しないという問題があり,その寸法の安定化を筆者がサポートすることになった。この部品はアルミの押出材に切削加工を行っていた。立派な治具を作製した金属の切削加工であるため,その加工箇所のばらつきは非常に小さいと想定された(図1)。

図1  切削加工に使用する立派な治具

しかし製品として最終的に組み上がると,この部品と液晶パネルの間にやや見映えの悪い隙間ができてしまうものがあったのだ。もちろん製品規格を満足し,その隙間は許容範囲内ではあった。しかし筆者は,精度の高い金属の切削加工によって発生するばらつきが,なぜ隙間を発生させるほどになるのか不思議でならなかった。

量産が開始されこの問題以外の打合せもあり,この部品のメーカーを訪問することになった。すでに部品は承認されていたが,前述したばらつきが気になっていたため,すべての工程の作業内容と,すべての治具を確認することになった。

この部品は棒状のアルミの押出材を,カット→曲げ加工→切削加工→金型加工→ヘアライン加工→埋め込みナット取付け→小板金取付けを行い,全部で39工程もある。補足ではあるが,この工程の中の曲げ加工によるばらつきが隙間を発生させる主な原因であったことを,ここで事前にお伝えしておく。

部品を固定する基準面が設計意図と違う

訪問した日はこの部品の生産は行っていなかったため,治具は棚に保管されていた。複数の切削加工の工程のうち,隙間の原因となりそうな箇所を加工する工程で使用されている治具を見たとき,すぐさまこの治具の問題点が見つかった。この治具は,部品の精度の出ていない面を基準として部品を固定していたのである。その概略を図2で示す。

この部品はA面が液晶テレビの最も外側の体裁面であり,ヘアライン加工が施してある。問題の隙間をなくすには,C面の加工寸法がとても重要であり,その基準となる面はB面であった。よってB面を基準にしてC面を切削加工するべきであったのだが,この治具はA面を基準にしてC面を加工していたのだ。この部品は押出材のためA面の直線性は期待できないことが事前にわかっていたため,B面を基準とするように図面は描かれていた。しかし,治具はそうなってはいなかったのである。

図2  設計意図とおりに作製されていなかった治具の部品の固定方法

この部品がどのように組み立てられるか,図面の見方を熟知した治具設計者であればこのことに気づくかもしれないが,この治具の設計者は気づかなかったのであろう。本来はこの部品の設計者が事前に治具設計者と打合せを行い,設計意図を伝えておくべきであった。

抜去力が低下した埋め込みナット

部品メーカーへの訪問中に,同じ部品において別の問題が発生した。それはこの部品の後半の工程で圧入される埋め込みナットの抜去力の問題だった。

抜去力とは抜け落ちる強度のことである。押出材を切削加工し,その後金型で丸穴をあけ,その穴に埋め込みナットを圧入する。抜き取り検査において,圧入された埋め込みナットに規定の抜去力に満たない部品があったのだ。金型で作製する丸穴なので,穴径にばらつきは発生しない。埋め込みナットも既製品であるため,外径寸法に大きなばらつきがあるとは考えにくい。急遽,原因究明を図った。

埋め込みナットの圧入工程での問題点

穴径も埋め込みナットの外径も信頼できる寸法であると想定すると,原因は次の2 つしか考えられなかった。

 ・埋め込みナットが適切に圧入されなかった
 ・金型で作製した穴に,何か加工が行われた

 まずは一番可能性のありそうな,埋め込みナットの圧入の工程を確認した。かなり旧式の圧入機を使用しており,人力で圧入していた。今回の抜去力の低下につながる直接的な原因ではなかったが,この工程である問題点を発見することができた。それは埋め込みナットを圧入する際に,押出材が水平に固定されていないことであった(図3)。

図3  部品の両端が浮き水平に安定しない(上)ため台に改善を行った(下)

つまりその結果として埋め込みナットがわずかではあるが斜めに圧入されてしまい,それが抜去力の低下につながっている可能性があったのだ。圧入する箇所の周りだけ部品を水平に安定させる台があったが,押出材は長い部品であるためその台を大きくはみ出してしまい,水平にならないことがある。この作業は圧入機を扱う人と,部品を水平に保つ人の2 人で行っており,感覚的に部品を水平にして圧入していたのだ。よって作業台の全面にシートを貼り,圧入する箇所の周りと同じ高さにする改善を行った。

圧入工程で見つけた不良品の処置

前述の改善だけで抜去力の低下の問題が解決すればそれで良いのであるが,筆者はそう考えられなかった。それは埋め込みナットが斜めに圧入されてしまった部品は,その工程の目視検査でラインアウトさせていたからである。

よって抜去力の低下のほかの原因を継続して探していたところ,圧入工程の前に,棒ヤスリを持っている作業者がいることに気づいた。その作業者は埋め込みナットを圧入する丸穴に棒ヤスリをすばやく入れて,さっと穴周囲をヤスリ掛けしているようであった。ラインリーダーを呼び,この工程はなぜ必要なのかを確認したところ,金型で作製した穴の周囲にわずかではあるがバリが発生していることがあるので,そのバリを除去しているとの回答であった。

QC工程表を入手してこのヤスリ掛け工程を確認したところ,この工程はQC工程表には入っておらず,バリの発生をなくす金型修正が完了するまでの暫定的なものであったということだった。

原因1〜不良品の工程戻しの位置

この作業者の作業を見て,抜去力の低下の原因はほぼ判明した。原因は2 つあり,その一つは工程戻しの位置の問題であった。前述した圧入工程において,埋め込みナットが斜めになってしまいラインアウトした部品は,埋め込みナットを取り外してラインに再投入する。その再投入の位置がこのヤスリ掛け工程の前になっていたのであった。

つまりヤスリ掛けの作業者は,バリがないにもかかわらず,同じ穴を2 回ヤスリ掛けしていたのだ。この2 回のヤスリ掛けで,金型であけた穴径が大きくなってしまった。即工程戻しの位置の変更を依頼した。最終的には,穴加工の金型修正が完了すれば,このヤスリ掛け工程はなくなる。

ちなみに埋め込みナットが斜めになった不良品は,埋め込みナットを取り外し,もう一回同じ丸穴に新しい埋め込みナットを圧入する。同じ丸穴への再度の圧入による抜去力の低下が許容範囲内であることは,事前に検証済みであった。

原因2〜ヤスリ掛け作業

もう一つの原因は,ヤスリ掛けの作業であった。この工程はバリを除去するために暫定的に追加されたものである。しかしこの作業者は目的がバリ除去であることなどまったく念頭にはなく,ただ感覚的に穴の周囲をヤスリ掛けしていたのだ。手の力の強弱もあるし,ヤスリ掛けする回数もまちまちである(図4)。

図4  作業目的を理解しないでヤスリ掛けする作業者

一般的にはこのような精度の必要な箇所に,ばらつきが発生しやすい手作業を施すこと自体が間違っている。金型修正までの暫定的な対策としてこの工程を追加する必要があったのならば,この作業者への作業指示をもっと明確にすべきであった。目視でバリの位置を確認,その箇所だけヤスリ掛け,棒ヤスリの向きなど。筆者の見たところ,この作業者は作業の目的をまったく理解せず,ただ丸穴の周囲をこする程度しか作業指示をされていないように見て取れた。またそれ以前の問題として,これは4M変更なので事前に設計者に知らされているべきであった。

抜去力低下の原因

結局この問題は,圧入機の台の改善,工程戻しの位置の変更,ヤスリ掛け工程の明確な作業指示の3つの改善を行うことによって解決した。

しかし最初の圧入機の台に関しては,不良品は目視でラインアウトさせているので,根本原因ではない。

設計者による製造現場の確認の必要性

前半の押出材の治具の不備に関しては,これは設計者しか解決できない問題であった。この部品の設計者ではない,例えば品質管理担当が治具を見たとしても,部品の固定すべき基準が間違っていることをその場で判断するのは,よほど高いスキルを持ち合わせた人でなければできない。製品への部品の取付方を理解し,図面を作成した設計者でなければ,治具を見ただけでの判断は難しい。

後半の抜去力の低下は,設計者以外でも発見できるかもしれない。しかし,ヤスリ掛けの工程が自分の設計した部品に必要な工程かどうかは,その部品を設計した人でなければ,すぐにはわかりにくい。設計者は自分の設計した部品をどのような工程でつくるかは,もちろん考えながら設計している。部品コストにも影響するので,加工工程をすべて理解していて当たり前である。よって不要な工程があれば,それに気づくことは容易なのだ。よってこの問題は設計者だからこそ,簡単に見つけられたと言える。(機械設計2020年9月号より一部抜粋)

<著者>
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
中国モノづくりの進め方コンサルタント。ソニーに29 年間在籍し,プロジェクターなど合計15 モデルを製品化。駐在を含む7 年間,中国でモノづくりを行う。中国での不良品や業務上のトラブルの発生原因が日本人にもあることに気付き,それらの具体的な対処方法を研修やコンサルで伝える。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<雑誌紹介>
【特集】画像認識・処理技術の基礎とシステム設計のポイント

加工・成形・塗装・組立てした製品(部品)に対する検査工程では、目視によるばらつきや見落としの排除、作業の効率化や人手不足に対応するためにも、自動化のニーズが高まっています。近年ではFA機器メーカーなどから、高精度カメラとともに、高度な画像認識・処理アルゴリズムや機械学習機能を搭載したシステムなどが相次いで市販され、自動化設備導入の機運は高まっています。
 本特集では、PART1にて各種カメラを用いた画像の撮影方法や画像認識の前処理などの基礎から、機械学習ベースの画像認識技術を外観検査へ応用する場合の考え方や開発方法、実際の画像認識アルゴリズムの実例までを解説します。PART2ではFA機器メーカーなどが販売する最新の画像認識・処理システムの機能や活用ポイントなどを紹介します。

雑誌名:機械設計2020年9月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

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