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偽陽性も出る「PCR」の限界、コロナ検査は新たな選択肢へ向かうのか

偽陽性も出る「PCR」の限界、コロナ検査は新たな選択肢へ向かうのか

東京都健康安全研究センターで行われているPCR検査(東京都提供)

1月中旬に新型コロナウイルス感染症の患者が国内で報告されて以降、今も検査方法の主役はPCR検査だ。3月にはPCR検査に公的医療保険が適用され、医療機関が保健所を経由することなく、民間の検査機関などに依頼可能になり、民間の検査能力を活用できるようになった。その後、ウイルスの表面にある特徴的なたんぱく質(抗原)を検査するキットが国内で初めて承認された。今ある検査手法を上手に使い分けることが新型コロナの収束のカギになりそうだ。

PCR検査の場合、発熱などの症状が出た人は主に保健所が運営する「帰国者・接触者相談センター」か診療所に相談し診察してもらう。専門外来か医師会が運営する「PCR検査センター」で検体を採取。これを公的・民間検査機関が分析するというのが主な流れだ。PCR検査は感度が高いとはいえ、現時点では高くて70%程度とされる。本当は新型コロナ感染症ではないのに陽性と出る「偽陽性」や新型コロナ感染症なのに陰性と出る「偽陰性」も可能性がある。

PCR検査より結果が早く出てより安価な検査方法として、5月に初めて国内で新型コロナの抗原検査キットが承認された。簡易検査キットは調べたい抗原にくっつく抗体がキット内にあり、抗原と抗体がくっつくと線が浮かび上がる仕組み。承認当初、陰性の場合は確定診断のためにPCR検査が必要だった。その後、抗原検査キットとPCR検査の結果の一致率が高いことが確認され、発症2日目から9日目までの患者については鼻咽頭ぬぐい液による検査で陰性でも確定診断が行われるようになった。

また、6月には専用の測定機器を使うことで抗原検査キットよりも感度が高く、抗原の定量的な測定が可能な抗原定量検査が薬事承認、保険適用された。現在、PCR検査と抗原定量検査では、症状発症から9日以内の患者と無症状者に唾液を用いた検査が可能になっている。

ほかには過去の感染状況などを調べる「抗体検査」もある。体外診断用医薬品として法的な承認を得てはいないが、疫学調査などの大規模調査で活用が期待される。横浜市立大学医学部の研究グループは今月から、新型コロナに感染し回復した人を対象に、抗体を追跡調査するプロジェクトを始めた。

国内では新型コロナの全国の新規感染者数が1日当たり1000人を超えるようになってきた。検査能力は1日当たり約5万2000件と感染者数が急増した4月上旬に比べ約5倍となり、実施人数は7月中旬以降、同1万5000人を超す日も増えてきた。

だが、7月31日に行われた政府の第4回新型コロナウイルス感染症対策分科会(尾身茂会長=地域医療機能推進機構理事長)後の会見で尾身会長は「また検査に目詰まりが出てきている」と指摘。その上で「今までは有症状者を中心に行ってきたが、無症状者の中でも感染リスクが高い人もいる。さまざまな方法で検査能力を増やしてもらえれば」と政府にさらなる能力増を求めた。

現在の検査体制の基本的な考え方や戦略は7月16日開催の第2回分科会で提言された。感染症対策と社会経済活動の両立が求められる中、感染リスク評価と検査前に考えられる陽性率(新規感染者数をPCR検査数で割った割合)に基づき検査対象を(1)有症状者(2)無症状者だが感染リスクと検査前に考えられる陽性率が高い者(3)無症状者で感染リスクと検査前に考えられる陽性率が低い者―に3分類した。提言では(1)と(2)の検査を優先させることを前提とした。関心が高い(2)は濃厚接触者、感染リスクが高いと自治体が判断した地域・集団・組織に加え、医療機関や高齢者施設などを対象に検査を行うとしている。

検査能力の拡大に向け、カギとなるのは抗原検査の活用だ。抗原検査キットは1日当たり約2万6000件の能力があり、抗原定量検査は医療機関に同8000件の能力がある。ただ、実際の医療現場では、採用があまり進んでいないとみられる。それぞれの利点・欠点を踏まえ、最適な検査手法を利用していく必要がある。

【インタビュー】日本感染症学会理事長・舘田一博氏

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーでもある日本感染症学会の舘田一博理事長に今後の対策について聞いた。

―PCR、抗原、抗体の三つの検査手法をどう活用するのがよいと考えていますか。
「今の感染状況を調べるPCR検査と抗原検査のバランスを考えながら活用し検査能力を増やしていく必要がある。抗体検査はこれらと性格が異なる。過去の感染の有無を調べる疫学的調査での利用や、1週間から10日後に抗体が陽性になった人への診断、抗体検査でスクリーニングすることで無症状者のウイルス保有者を検出できる可能性がある」

―新型コロナの感染が全国で急拡大しています。対応策は。
「バーやナイトクラブなどの接待を伴う飲食店、友人との飲み会や会食など、マスクを外して大声で話す状況の中で感染が広まることが分かっている。これを踏まえ、社会経済と感染対策の両立のための目標と基本戦略を分科会として提言し、感染状況を4段階に分け、これを判断する六つの指標と数値基準を示した」

「第1波が終わってから再び(感染者数が)上がってくるのが早いとは感じている。上がったら抑える。今後もこれを繰り返していく必要があるだろう」

(聞き手・山谷逸平)
【キーワード=抗原検査】
抗原定性検査と抗原定量検査の2種類がある。抗原定性検査は迅速診断キット、簡易検査キットなどとも呼ばれる。富士レビオ(東京都新宿区)の検査キットが5月に国内初の新型コロナ抗原検査キットとして薬事承認を得た。12月までに新工場を稼働し、週40万検査分の生産体制を構築する。子会社がインフルエンザ検査キットで国内最大手のデンカも7月に承認申請した。最大で1日10万検査分の生産体制を構築中だ。富士レビオは抗原定量検査でも6月に薬事承認を得ている。1日最大7万テストの製造能力がある。
日刊工業新聞2020年8月12日

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