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【独自アンケート】コロナ禍で変わる企業の研究開発。投資額・働き方・女性採用…

研究開発費トップはトヨタ
【独自アンケート】コロナ禍で変わる企業の研究開発。投資額・働き方・女性採用…

トヨタ自動車の豊田章男社長

日刊工業新聞社が実施した研究開発(R&D)アンケート(有効回答238社)によると、2020年度の研究開発費計画額を回答した102社の合計は、19年度実績比1.9%増となり、微増ながら11年連続増加となった。新型コロナウイルス感染症拡大の状況下でも投資意欲は堅調だ。ただ、コロナの影響で本年度業績見通しを公表しない企業も多く、6割の企業が研究開発費計画を「未定」「非公表」などとして金額を示さなかった。一方、新型コロナ対策として研究開発部門にテレワーク(在宅勤務)を今回導入した企業は223社中約4割の89社。「以前から導入している」と回答した124社を含めると、95%以上の企業が研究開発部門でテレワークを活用したことが分かった。

製薬系、持続的成長へ積極投資

研究開発費の企業別順位では、トヨタ自動車が1兆1000億円と19年連続の首位。「08年のリーマン・ショック時にすべての活動を止めた結果、復活に時間がかかったことが反省点。構造改革を進めることで前年並みの研究開発費を維持する計画」(トヨタ)とした。 

4位はアステラス製薬、5位の第一三共、6位の大塚ホールディングス(HD)、8位のエーザイと上位10社の約半数が、新薬開発に多くの費用と期間がかかる製薬企業で占められた。売上高比率もそろって2ケタを記録した。「買収に伴う研究開発費を通年で計上することなどが増加原因」(アステラス製薬)、「持続的成長を実現すべく積極的な投資を行う」(小野薬品工業)と業界の環境を反映した。

しかし、19年度6位だった製薬最大手の武田薬品工業は「今期計画は非開示」と回答。そのほか19年度10位以内だったホンダ、日産自動車、デンソー、ソニー、パナソニックのいずれも20年度の計画数値を調査時点で公表しなかった。

全体で今期計画額を回答しなかった企業は、19年度の56社から136社と2・4倍に増えた。コロナ禍で研究開発環境を見通せない企業が多い状況を今回の回答社数は浮き彫りにした。 

研究開発部門のテレワーク導入は「今回導入した」が4割で「以前から導入している」の5割が上回った。「導入を検討・計画している」「現在は検討・計画はない」との回答は合わせて4・4%にとどまっており、在宅勤務が研究開発部門でも浸透している。

研究開発人材の向こう数年を見通した研究開発人員数を「増やす」と回答した企業は19年度比13・9ポイント減の28・6%となり、企業の採用意欲が落ちている現状を浮き彫りにした。

また研究職の女性活躍推進について聞いたところ、64%の企業が女性採用増を「意識している」と答えた。だが現状では研究職の女性比率が「1割以下」(57・7%)にとどまっていることが明らかになった。

アンケートは1988年度から実施し、今年は33回目。6月中旬から7月上旬にかけて調査した。

女性の活躍 研究職「1割以下」57%

研究職における女性の活躍推進を今回、初めて尋ねた。人材の多様性を高める上で、理系女性という切り口をどうとらえているかみるのが目的だ。まず「研究職の女性比率」がおよそどの程度か聞いた。有効回答208社のうち「1割以下」を選んだのが57・7%と過半数だった。「約3割」は38%、「約5割」が4・3%で、「6割以上」はなかった。「約5割」を選んだ企業は「医薬・トイレタリー」に集中し、この業種では23社中8社がそうだった。

次に研究職の女性採用増を意識しているかを聞いたところ、有効回答216社のうち「意識している」が63・9%。「意識していない」26・9%。「その他」9・3%だった。

二つの設問を合わせて、現状は「1割以下」だが、採用増を「意識している」と回答した企業が多い業種は、「家電・部品」「産業機械・造船・車両」「工作機械、その他機械」「自動車・部品」「鉄鋼・非鉄金属」などだった。

さらに全体の傾向に対して女性リーダーの存在を把握するため、「研究職または技術職から実現した最も高い女性の上級職のクラスは何か」と問いかけた。その結果、有効回答217社のうちクラスの高い順に「役員クラス」が18・4%で、「部長級」が45・6%。「課長級」は25・8%、「主任級」は6%となり、「上級職はいない」も4・2%であった。

女性の少ない理系でありながら、2割弱の企業に役員クラスがいるという結果は予想以上といえる。かなり意識して登用を進めているようだ。部長級も約半分の企業に存在する。部下を大勢抱えて組織を動かす立場でなくとも、具体的モデルがいることは、理系女子学生の入社志望にプラスに働きそうだ。

業種別で役員クラスが多いのは「総合電機・重電」で7社中3社、「精密機器、事務機」で12社中5社。機械系はいまだ女子学生比率が低い分野だが、総合電機は男女雇用機会均等法前からの研究者採用実績などが強みだ。「化学」は25社中4社、「医薬・トイレタリー」が24社中8社。「ビール・食品」になると6社中3社で半数だ。全社的にも理系でも比較的、女性が多い業種で、エグゼクティブが育ってきているようだ。

自由筆記の「活躍推進の工夫」は、全体として文系理系を問わない後押し策が多かった。その中で採用時の策は「技術系中心の女性社員からなる採用プロジェクト」「技術系女性特化の採用セミナー」などで、インターンシップ(就業体験)や育成基金もあった。社員に対しては「女性エンジニア限定交流会」「研究開発女性管理職のメンタリング」で応援し、「外部表彰の応募積極化」「社外の女性研究者支援」と自社の広報戦略と重ねる例もみられた。

「女性研究者と技術系役員の懇談会」といったポジティブアクションは限定的で、「性別にかかわらず」「男女の区別なく」との記述も目立つ。どこまで積極的に動くかは一律ではないようだ。

日刊工業新聞2020年8月11日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大企業の女性役員が続々と近年、誕生しているが、女性社員の文理比率はそもそも差が大きい。「理系×女性×役員」はごく少ないのではないか、と私は調査票作成の時点から想像していた。蓋を開けてみたら、2割弱と驚くほどの高い数字だった。「理系×女性×部長級」となると半分弱の企業で出てきている。学生や若いリケジョには「モデルがいないなんていうのは昔の話。先輩らはここまで開拓してきました。就職先の企業が少々、遅れていたとしても、心配する必要はありませんよ」と伝えたい。

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