クボタにヤンマー...コロナでも底堅い「小型建機」、今後は電動化がカギに
新型コロナウイルス感染症の「第2波」到来の懸念が世界各国で強まっている。その一方で経済活動が徐々に動きだした。活動再開に伴い、都市部での再開発における建設などで欠かせないのが小型建設機械だ。建設以外に造園、林業、農業、畜産などで使える応用の幅の広さも強みとなる。小型建機市場を取り巻く現状を追う。(取材・林武志)
日本建設機械工業会(建機工)は2020年度の建機出荷金額(補給部品を除く本体)が前年度比3%減の2兆2294億円になるとしている。ただ調査は1月14日時点で新型コロナの影響は含まれていない。今後、大規模建設や鉱山開発などへの投資状況次第で影響が出るとみられる。
一方、建機工の統計上では製品重量6トン未満を「ミニショベル」とする。小型建機の代表的な製品は掘削、運搬、積み込みなどの作業ができ市街地でも活躍するミニバックホー(MB)。「後方小旋回」と呼ばれる狭所での作業性は機内の狭い空間に複雑な油圧の配線などが必要で設計・組み立てにひと手間掛かる。これが中国新興勢などが本格製造しづらい要因にもなる。MB以外は資材・土砂運搬用のホイールローダー(WL)、北米で土木建設・運搬で需要が多いクローラー式のコンパクトトラックローダー(CTL)、ホイール式のスキッドステアローダー(SSL)などがある。
新型コロナの影響は不透明だが小型建機は都市部での再開発とともに住宅着工で需要が多い。主要市場の米国ではトランプ政権による住宅ローンの低金利もあってここ数年、住宅市場は活況だった。
新型コロナでこうした風景は一変したが全米各州で実施の外出制限解除に伴い、今後は建設労働者の復帰も進み住宅着工も上向くとみられる。ただ第2波到来は懸念で、クボタの北尾裕一社長は「今は毎週の市場状況を見ながら意思決定しなければならない。“変化の兆し”を素早くフィードバックする必要がある」と警戒する。
全米住宅建設業者協会(NAHB)による米住宅建設業者の景況感を示す経済指標「NAHB住宅市場指数」の6月は58と5月から21ポイントの上昇。楽観視は禁物だが米住建業界の回復基調が示された。
もう一つ注視する必要があるのが11月の米大統領選の行方だ。結果がどう転んでも巨大市場の経済立て直しに向けた計画の影響を鑑みる必要がある。
クボタが手がける小型建機の世界需要は08年の約20万台から19年は倍増以上の43万台となった。クボタ建設機械事業の事業部連結売上高も15年の2002億円から19年は3117億円に伸長。製品拡充などで22年には19年実績から約3%増となる20%程度の世界シェア獲得を目指す。ヤンマーも19年の米ASV(ミネソタ州)買収で存在感を高める。
今後の開発では電動化も課題。電動化MBの試作機を1月に披露したクボタは3年後の製品化を目指す。成長軌道が続いた小型建機市場だがコロナ禍は試金石。メーカー各社も底力が問われる。
クボタ常務執行役員とヤンマー建機社長に聞く
クボタとヤンマーホールディングス(HD)の2社は農業機械メーカーのイメージが強いが、小型建機でも存在感を発揮している。クボタの建設機械事業部長を務める湯川勝彦常務執行役員とヤンマー建機(福岡県筑後市)の奥山博史社長に戦略などを聞いた。
インタビュー/クボタ常務執行役員・湯川勝彦氏 北米でディーラー強化
(米農機販売子会社があることを生かし)MBは米国で農機の販売網に乗ってきたが今は独自販売網もあり、アフターサービスも行き届く。中国は地場勢が製品重量5トン、7トン級で低価格製品を伸ばしている。そこで当社が強い4トン以下の製品を投入している。
―主要市場の北米での戦略は。北米はMBに加えてSSL、CTLもある。製品拡充、ディーラー網の強化、アタッチメント事業の拡大などだ。建機に強いディーラーの選択も必要で、(教育など)ディーラー強化にも取り組まなければならない。既存ディーラー攻略では店内シェアを高めていきたい。そのためには品ぞろえが重要になる。
―注力ポイントは。(米MB市場の約3割はレンタルだが)レンタルはまだ手薄。ここを強くすると効率的に伸ばせる。レンタル会社への攻略も積極化したい。
―欧州については。MBとホイールローダーが中心だがCTL、SSLもいずれは投入したい。ドイツの生産キャパシティーが大きくなっているが現状、増築を重ねて少額投資で対応できている。
―水・環境分野との連携も期待できます。当社は鉄管も強い。人手不足対応で工期短縮につながる提案ができればいい。(国土交通省が工事全般で生産性向上への『アイ・コンストラクション』を掲げるが)“水道のアイ・コンストラクション”で測量から工事まで対応し、ソリューション提供も目標だ。
インタビュー/ヤンマー建機社長・奥山博史氏 顧客支援ワンストップ
目指すのは30年に小型建機全体でグローバルなリーダーになること。総合的にお客さまをワンストップでサポートし、製品をそろえていきたい。建機をフルラインでそろえ、その中の1機種として小型建機を持つ場合と、小型建機のみを中心に使うお客さまの要求は異なる。我々は小型建機に集中し、その中で高みを目指す。
―19年に約80億円で米ASVを買収しました。ヤンマーの売り上げとしてはグローバルに戦える体制ができてきた。シェア、台数とも伸ばしたい。(20年3月期時点の)海外比率は約70%。ASVは大きなメーカーではないが、狙いは製品拡充と北米での生産拠点確保。新型コロナの影響は不透明だが、19年度は中国で住宅投資やインフラ開発など向けに小型油圧ショベルやホイールローダーが伸びた。
―トルコで19年から建機のシェアリングサービスも始めました。トルコでどうやればうまくいくかポイントは分かってきた。将来は他国へも横展開したい。レンタルがあまり発達していない市場の方がやりやすいと考え、それが当てはまるのがトルコだった。
―電動化対応は。開発における今後の必須要素だ。トンネル工事などでは、より電動化が求められる。労働人口の減少で省力・省人化対応は不可欠となる。それに伴い、未熟練者でも簡単に使えることが重要。もちろん建設現場での安全への対応が最優先になる。
私はこう見る
◆北米、住宅・インフラ投資堅調 みずほ証券シニアアナリスト・宮城大和氏小型建機市場は新型コロナ感染症拡大の問題による悪影響を欧州などで受けているとみられるが、最大市場である北米は依然として底堅い推移を見せている。ロックダウン(都市封鎖)の影響が西欧などに比べ厳しくなかったこと、住宅市況やインフラ投資が堅調なことが背景だ。ただ北米ミニショベル需要は15年以降、毎年ピークを更新し続けており、既に高水準。今後の成長率は鈍化していくであろう。
北米向け主導の成長を維持するためには現地生産体制整備による収益性向上やラインアップ拡充によるシェア上昇などが重要になる。長期的な伸びしろの大きい市場は、都市化が進む中国など新興国市場になる。しかし中国では現地メーカーが存在感を強めており、価格競争力ある製品での対抗か技術力を生かした高付加価値製品での差別化など、かじ取りは難しくなっている。また今後は電動化対応などの取り組みも重要性を増していくと考えられる。(談)