新型コロナで加速、ウェブサービスがシニアの「生活必需品」に
直接対面するコミュニケーションが難しいコロナ禍において、私たちと世界を繋いでいたオンラインサービスが改めて脚光を浴びている。中でも今までデジタルデバイスやオンラインサービスにあまり触れてこなかったシニア層でコロナ禍をきっかけに一気にサービス導入が進む可能性がある。(取材・昆梓紗)
「楽しみ」だけじゃない
総務省の2018年度調査(※1)では、60代のスマホ利用率は60.5%。前年の45.1%に比べ大幅な伸びとなっている。
博報堂の調査(※2)によると、スマホでの利用アプリは天気、ニュース、地図、乗換案内など、外出に関連するものが多い。博報堂シニアビジネスフォース新大人研所長の安並まりや氏は、「実際に使っている方々は『楽しい』『写真が撮れる』『仲間と繋がれる』といったポジティブなサイドから導入するようだ」と話す。家族からスマホの購入を勧められたり、趣味のコミュニティや友人からコミュニケーションツールやSNSを紹介されたり、といったシーンが多いという。
ただし、新型コロナウイルスの流行後には、「楽しむための活用」以上に、「生活インフラ」という面が徐々に強まってきている。
オンラインサービスに明るい「アクティブシニア」(※3)の中では、「新型コロナウイルスの流行をきっかけに、オンラインで行うことで増えたこと」のトップが「ネットニュースを読む」だった。
「新型コロナウイルスに関する情報収集手段」としても、82.7%の人がネットニュースと回答している。日々刻々と状況が変わる中で最新の情報を得られるという点や、地域や個々人で知りたい情報が違うといった多様なニーズに対応できたというのが、ネットニュースが支持された理由だと考えられる。
一方で、外出自粛に伴い「ECが伸長するのでは」と予想されたが、利用が増えたと回答した人は12.9%とあまり伸びが見られなかった。ネットスーパーも同様に4.1%にとどまる。
ただし「今後増えそうなことは」という質問項目ではECで25.3%、ネットスーパーで14.1%とそれぞれ回答があり、利用したい気持ちと実際の行動とのギャップが浮き彫りになった。この背景には、シニアが使いやすいUI・UXになっていないという点に加え、クレジットカード番号や口座番号を入力することへの抵抗感があるようだ。
備えであり救い
防災の観点からもオンラインが重視されはじめた。今までは防災といえば食糧備蓄や防災グッズを揃えるといった考えが主だったが、新型コロナウイルスでは刻々と変わる状況をキャッチすることが必要だ。「情報」の備えに対する注目が高まることで、デジタルデバイスの必然性が高まってくる。
今まではスマホとシニアの接点は「新しいアクテビティ」という意味合いが強かったが、「今後は、いざというときに連絡をとれる、生活基盤を整えるためのデバイスとしての位置づけとなってくる。それを後押ししていくべきなのではないかと思う」(安並氏)。
また、コロナ禍において看過できないのが、孤独の問題だ。
「新型コロナウイルスが広がる前と比べて孤独を感じている」と答えたのは全体の39%。75歳以上では43.4%となっている。各種SNS、オンラインミーティングツールを使い、非対面コミュニケーションを活発に行える下の世代に比べ、シニア層では利用している人の割合が少なくなる。安並氏は「今後シニア層向けにも『繋がり』を拡充していくサービスが増えていくのでは」と見る。
その事例の1つに、趣味のコミュニティをオンラインで提供している「趣味人倶楽部」が行った「オンラインオフ会」の取り組みがある。もともと趣味人俱楽部ではオンライン上で知り合った趣味コミュニティでリアルのイベントを行う「オフ会」が活発に行われていたが、コロナ禍においては難しくなってしまった。そこでZoomを利用した「オンラインオフ会」の講習を開催したところ、今までに1000人ほどが受講、会員同士がオンラインオフ会を行う大きなきっかけとなっている。
旅行、友人や家族との外出など、「外向きの消費」の人気が高かったシニア層だが、今後は内向きの消費が注目されていくだろう。
2020年代には3G回線が停波することもあり、ガラケーからスマホへの切り替えをどう進めるか、どうすればスマホデビューを果たせるかは通信会社の大きな課題の1つだ。現在は家族のサポートがあってスマホを購入、使えるようになるというシニア層が多いが、今後自分1人だけでも使いこなせるようになるような仕組みも求められてくる。
「『シニア』と呼ばれること自体に抵抗感があるという声も多く、彼らの尊厳を守りながらも使いやすい、生活に取り入れやすい仕組みが必要。ただ、学習意欲が高い人が多く、新しいものを取り入れる前向きさもあることが世代の特徴でもあるので、ここをうまく生かしていくとよいだろう」(安並氏)。
そして何より強い動機付けとなるのが「周囲の人が使っている」こと。コロナ禍をきっかけに、所属するコミュニティや家族から勧められて使い始めるシーンが増加している。今後は一層、サービス側のサポートや対策が急務となる。
(※1)平成 30 年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査
(※2)博報堂新大人研定点調査2019
(※3)博報堂シニアビジネスフォース、および趣味人倶楽部シニアコミュニティラボ「新型コロナウイルスによる生活への影響に関するアンケート」より
安並まりや 博報堂シニアビジネスフォース 新大人研所長
2004年博報堂入社。ストラテジックプラナーとしてトイレタリー、食品、自動車、住宅・人材サービス等様々な業種のマーケティング・コミュニケーション業務に携わる。2015年より新大人研のマーケティングプランナー兼研究員として、シニアをターゲットとしたプラニングや消費行動の研究に従事。2019年より新大人研所長に就任。
共著に『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)
【特集】急接近、シニアとオンライン
コロナ禍によりシニア層もオンライン化に拍車がかかるのか。サービス、通信会社、消費行動や心理などを取材した。